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緊密化する日米関係と冷え込む日中関係:高市政権の外交路線がもたらす地政学的な波紋


 

高市早苗政権の発足は、日本の外交・安全保障政策において「女性安倍」を前面に押し出した新たな局面を迎えたことを意味する。安倍晋三元首相の路線を継承し、日米同盟のさらなる深化に注力する高市総理の姿勢は、日本を取り巻く地政学的な環境に大きな変化をもたらす可能性がある。特に、その強固な対米・タカ派的姿勢は、中国との関係を冷え込ませるという不可避な結果を招く恐れがある。

 

■日米同盟の「質的強化」への傾倒

 

 高市総理は、かねてより経済安全保障と防衛力の強化を重視する姿勢を鮮明にしてきた。今後、この路線は一層明確化されるだろう。具体的には、米国との間で「共通の価値観」に基づく連携を強化し、インド太平洋地域における抑止力の向上を目指す。

 

 これは、米国の「対中戦略」と完全に軌を一にするものであり、サプライチェーンの強靭化、重要技術の保護、そして台湾海峡の平和と安定を巡る連携が、これまで以上に緊密になることを意味する。米国側にとっても、高市政権は信頼できる「タカ派のパートナー」であり、日米関係は「同盟の質的強化」という新たな段階へ移行する。高市総理の毅然とした外交姿勢は、国内の保守層からの期待も高く、政権の推進力となる要素だ。

 

■中国の「戦略的相互関係」への圧力

 

 一方、高市政権の対米重視路線は、中国との関係に決定的な影響を与える。高市総理の言動は、中国側からタカ派的と強く認識されており、中国メディアからもその姿勢が外交に与える影響について警戒の声が上がっているのが現状である。

 

 高市総理が台湾との関係を重視し、中国による現状変更の試みに対して断固とした姿勢を示すことは確実だ。経済安全保障の観点からも、中国依存からの脱却、すなわちデカップリングやデリスキングの動きを加速させるだろう。

これに対し、中国は核心的利益に関わる問題での日本の行動を厳しく注視する。歴史認識や台湾問題、尖閣諸島(中国名:釣魚島)を巡る問題で、高市政権が強硬な態度に出れば、中国側は対抗措置を取る公算が大きい。首脳間の対話が停滞し、経済的な報復措置が取られる可能性も否定できない。日中両国が掲げる「戦略的互恵関係」は、高市政権の下で「戦略的冷え込み関係」へと変質していくリスクを抱えているのである。

 

■試される「バランス外交」の行方

 

 高市政権の外交は、日米関係の深化と日中関係の冷却化という、二つの相反するベクトルの中で進むことになる。国際社会が米中対立の激化という分断の時代にある中、日本が一方の極に寄ることは、短期的に安全保障上の安心感をもたらすかもしれないが、同時に経済的なリスクや地域外交における孤立のリスクも高める。

 

 高市政権が成功するためには、日米同盟を基軸としつつも、中国を不必要に刺激しない戦略的な配慮と、東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドなど、第三国との連携を強化する多角的な外交手腕が必須となる。「強い日本」の実現を目指す高市総理にとって、この危ういバランスをいかに保つかが、政権の命運を握る最大の鍵となるだろう。

イメージ/イラストAC

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プロバンスぷろばんす

これまで世界50カ国ほどを訪問、政治や経済について分析記事を執筆する。特に米国や欧州の政治経済に詳しく、現地情報なども交えて執筆、講演などを行う。

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