朝ドラ『あんぱん』豪は第二次上海事変で戦う? 多数の戦死傷者を出した日中全面戦争突入の最前線へ送られた可能性
朝ドラ『あんぱん』外伝no.20
NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』は、第6週「くるしむのか愛するのか」が放送された。朝田釜次(演:吉田鋼太郎)の弟子として、家族同然に暮らしてきた原豪(演:細田佳央太)に赤紙が届き、出征することになる。豪に想いを寄せる蘭子(演:河合優実)はそれでも想いを打ち明けられないままだったが、のぶ(演:今田美桜)の後押しもあって2人は「戻ってきたら夫婦になる」と約束。母・羽多子(演:江口のりこ)に背中を押され、2人はたった一夜だけの恋人としての時間を過ごし、豪は出征していった。今回は、当時の戦況と四国出身の兵士らも参加した「第二次上海事変」について取り上げる。
■いよいよ日中全面戦争へ…高知を徴兵区とする師団は上海に派遣される
大日本帝国陸軍においては、全国の地域を師管や連隊区といったように区分けし、基本的にはそれぞれの本籍地に基づいて徴兵するシステムをとっていた。
もちろん時期によって制度が大きく変化し、管轄にも変動があるが、昭和12年(1937)時点で、高知は第11師管に含まれている。第11師管は大正14年軍令陸第2号に基づいて、大正14年(1925)に1県1連帯区の四国全域で構成されるように改定。昭和19年(1940)7月末までは、丸亀連隊区、徳島連隊区、松山連隊区、高知連隊区が属している。高知連隊区は大正9年(1920)に徳島連隊区から安芸郡を編入し、以降は高知市・香美郡・長岡郡・土佐郡・高岡軍・幡多郡・安芸郡―つまり高知県全域を管轄していた。
原豪は架空の人物ではあるが、仮にこの史実に照らし合わせるのであれば、この高知連隊区、第11師管において徴兵されたことになる。そして、この第11師管を徴兵区としていたのが、日清戦争後に創設された師団のひとつ、第11師団だ。先述の通り管轄区域に変動はあるが、日露戦争では旅順攻略戦や奉天会戦に参加し、シベリア出兵にも加わった師団である。その師団を構成する連隊のうち、歩兵第44連隊は高知県高知市に兵営などを構えていた。
盧溝橋での衝突に端を発して軍事衝突が拡大していったが、全面戦争に発展した契機といえるのが昭和12年(1937)8月13日から始まった「第二次上海事変」である。同日、日中両軍は戦闘を開始。大日本帝国政府は、緊急閣議によってこれまでの「不拡大政策」を捨てることを決断。第3師団と第11師団に動員命令を下し、上海派遣軍を編成した。その後2個師団は上海北部への上陸を成功させ、激しい戦いに身を投じていく。
戦闘は激しさを増す一方だった。同年9月末までに第11師団は戦死者約1,500人、戦傷者約4,000人という大打撃を受けたという。最終的には、国民革命軍が焦土作戦を行いながら上海から退却し、この一連の戦闘は11月12日に日本軍の勝利ということで一旦の終結を迎える。しかし、日本軍の方も数万人と言われる死傷者を出し、甚大な被害を受けた。
その後、第11師団は昭和13年(1938)9月に満州に派遣され、その地で駐屯することになる。作中では豪がどの部隊に入隊することになったのか明らかにされていないため、これはあくまで史実と照らし合わせた場合の一つの可能性に過ぎないが、当時四国出身の兵士も数多くこの激戦の地に送られたことは記憶に留めておきたいところだ。

上海市街地での戦闘を描いた当時の漫画/『輝く無敵陸軍 : 軍隊教育漫画』より
<参考>
■防衛研修所戦史室『陸軍軍戦備』(朝雲新聞社)
■防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書 支那事変陸軍作戦 <1>』(朝雲新聞社)
■軍事普及会『輝く無敵陸軍 : 軍隊教育漫画』