国宝のお寺にある「むちゃくちゃに長い屋根つきの階段廊下」 長谷寺/奈良県桜井市
神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第20回】
津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。

奥に見えるのが国宝に指定されてる長谷寺の本堂。そこにたどりつくには‥‥。撮影:森田季節
■屋根のついてる長すぎる階段で国宝の本堂へ
奈良県の長谷寺というと、江戸時代前半に建てられた巨大な国宝の本堂が目立つ、著名な観光寺院です。真言宗豊山派の総本山という格式にふさわしい広大な境内と伽藍に圧倒されます。ただ、今回はこの大寺院のとある特徴に目を向けてみたいと思います。
それは無茶苦茶に長い屋根つきの階段廊下です。普通の建物だと階段は階段、廊下は廊下であって、階段部分を廊下と認識する人はあまりいないと思います。まあ、廊下は走るなと言われたら、階段はもっと走ってはダメですが……。しかし、長谷寺の場合は、「階段であり廊下でもある」と表現しても、全然違和感がありません。これは写真を見ていただいたほうが早いですよね。

約200メートル、399段の長い長い階段。とはいえ見どころが多く、楽しく登れる。撮影:森田季節
ためしに広辞苑で廊下を調べてみると「家屋内の細長い通路」といったことが書いてありました。誰がどう見ても細長い通路なのでこれは廊下ですし、同時に階段です。この屋根つき建造物はお寺や文化庁では登廊(のぼりろう)と呼んでいます。おそらく一般名詞なのでしょうが、普通のご家庭やビルにはこういう構造のものはないので、ほぼ固有名詞みたいなものですね。
長谷寺はこの登廊が仁王門から延びており、途中カクカク曲がりつつ高台の本堂に到達します。ちなみに登廊と登廊がカクカク折れるところのジョイント部分は 「繋屋(つなぎや)」というあずまや的なものを置いたり、座王堂を設置したりしています。現代人が見ても登廊が天へ登っていくように本堂に向かう景観はテンションが上がるものですから、昔の人はもっと興奮したことでしょう。この登廊の終点部分が鐘楼に接続されていて、そこから本堂のほうに曲がるのも面白いです。ここまでいろんな建物を雨にぬれない屋根として利用している寺院もほかにないでしょう。

登廊と本堂の間にある三百余社。この後ろが懸造りの本堂である。撮影:森田季節
長谷寺境内はほかにも見るべきものがたくさんありますが、それを書いていくときりがないので代わりに参道の食べ物を紹介します。近鉄の駅から長谷寺までの参道には、草餅を扱っているお店がちょくちょくあります。お値段も安いですし、参拝後の休憩にちょうどいいです。このあたりは冬はとにかく寒いですが、ストーブのついたお店で焼き餅を食べるとその寒さまでオツに感じますよ。いや、やっぱり寒すぎるか……。草餅で足りない方はにゅうめんや柿の葉寿司を扱うお店もご利用ください。

江戸時代にはすでに名物となっていた長谷寺の草餅。撮影:森田季節