「魔羅」は陰茎の隠語【江戸の性語辞典】
江戸時代の性語89
我々が普段使っている言葉は時代とともに変化している。性に関する言葉も今と昔では違う。ここでは江戸時代に使われてた性語を紹介していく。
■魔羅(まら)
陰茎のこと。春本や春画では、「魔羅」や「へのこ」と称するのがもっとも一般的である。現代でも通用する性語と言えよう。
図は人相から魔羅を判断するもので、右から、
1番目は、腎張麩男根(じんばりふまら)
2番目は、上反大玉茎(うわぞりおおまら)
3番目は、雁高疣玉茎(かりだかいぼまら)
4番目は、八寸胴返(はっすんどうがえし)
5番目は判読不能
の相だという。

【図】人相と魔羅。『会本妃女始』(喜多川歌麿・勝川春潮、寛政2年)、国際日本文化研究センター蔵
(用例)
①春本『色能知巧左』(喜多川歌麿、寛政10年)
不倫の男女の密会。
男「盗み物の悲しさには、ただ魔羅骨(まらぼね)の続くだけ、するよりほかに、しようはねえ」
女「太くて、長くて、いっそまた、おいしい」
もちろん、魔羅に骨はない。魔羅骨の続くだけは、体力の続くだけという意味。
②春本『為弄也説話』(蹄斎北馬、文化5年)
うまく挿入できない男を、女がはげます。
「魔羅は開(ぼぼ)を突く道具。めめこは、ちんぼこの入れ物なれば、入らぬことはあるめいし、早く入れてみなよ。口は狭くっても、奥はお広うありやすよ。ええ、もう、じれっていのう」
「開」も「めめこ」も女性器のこと。
③春本『すゑ都無花』(葛飾北嵩、文化14年)
亭主の留守に、女が間男を引き込む。
女「今にぼんくらが帰ると、また、やかましいよ。このあいだも、おめえが帰ると、あとで怪しいと言って、手をやってみたわな。ほんに、恐ろしい焼き餅だよ」
男「このいい開(ぼぼ)を、人の物と思えば、腹と魔羅が立つぜ」
女は亭主を「ぼんくら」と呼んでいる。亭主は女房の浮気を疑い、手で陰部をさわってたしかめたようだ。
それにしても、不倫をしていながら、男も女もふてぶてしい。
④春本『閨中膝磨毛』(文化~嘉永年間)
オス犬とメス犬の交尾を見ているうち、男は、
しだいに、うらやましさ、たまりかねて、魔羅はにょきにょきと生(お)え立ち、天狗面を風呂敷に包みたるごとく突っ張りかえれば、
勃起の様子の表現が面白い。天狗の鼻が風呂敷を突き上げているのだ。
⑤春本『淫書開好記』(歌川芳員、慶応2年)
女二人が魔羅談義をする。
女同士、男えらみの高話に、玉茎(まら)の良し悪し、言い並べ、
「あの時はほんとに気をやらされた」
の、
「誰の魔羅は長すぎて子壺を突いて痛い」
のと、口々しゃべるを聞くにつけ、
玉茎に「まら」と読み仮名を付けている。
[『歴史人』電子版]
歴史人 大人の歴史学び直しシリーズvol.4
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