大河ドラマ『べらぼう』素肌に火のしを押し当て、全身を竹棒で殴打 足抜けに失敗した遊女が受けた激しい折檻とは
NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の第9回「玉菊燈籠恋の地獄」では、新之助(演:井之脇海)がうつせみ(演:小野花梨)と逃亡を図るも失敗し、連れ戻されたうつせみが激しい折檻を受けた。一方、思いを通わせた蔦屋重三郎(演:横浜流星)と瀬川(演:小芝風花)も一時は足抜けを画策するも、現実とお互いの歩むべき道に向き合うことになる。結果、瀬川は鳥山検校(演:市原隼人)の身請けを受け入れることになった。今回は掟を破った遊女に待ち受ける凄惨な仕打ちについて取り上げる。
■足抜けに失敗した遊女は見せしめとして痛めつけられた
吉原の遊女たちは基本的に年2回の休日以外は毎日客をとらされた。当然、月経の期間中もお目こぼしというわけにはいかない。さすがに2日ほどは客との性交は避けたようだが、楼主や遣手婆は月経が早く終わるという迷信があった「鍋炭(鍋の底に付着した炭)」を飲ませるなどして、無理やり仕事をさせたという。
そんな苦界で、遊女たちが本気で恋をした相手のことを「間夫」などと呼んだ。相手が金持ちの客ならまだしも、吉原に通い続けるには莫大な金がかかる。遊女たちは自分で自分の揚代を支払う「身揚がり」をするなどしてどうにか間夫に会おうとしたが、元々借金を背負わされた遊女にとって身揚がりを続けることも容易なことではなかった。
遊女が吉原から出られるのは、年季が明けた時か身請けされた時だけである。それ以外で間夫と添い遂げるために吉原から脱走を企てることを「足抜け」などといった。とはいえ、吉原は遊女の脱走防止策が徹底された牢獄のような街である。出入口の大門には四郎兵衛会所が設置されていて、万が一にも遊女が出入りしないよう目を光らせていたし、遊女以外の女性の出入りも厳しく管理されていた。さらに、周囲を高い塀で取り囲み、その下にはお歯黒どぶもあった。
だからこそ、男の方も人を雇うなどしてどうにか遊女を脱出させようとしたが、妓楼からすれば“商品”である遊女の脱走は経済的にも大打撃だし、他の遊女たちにもしめしがつかない。そして自分たちのメンツにも関わる。そのため楼主は足抜けが発覚するとすぐさま追手を差し向け、どのような手を使ってでも探し出して連れ戻させた。よって、多くの場合3日と経たずに連れ戻されたという。
遊女が連れ戻されると、激しい折檻を受けるのはもちろんのこと、遊女としての格を落とされるなどの厳しい罰が待っていた。さらに、捜索にかかった費用が借金に上乗せして処理されたり、年季増しの証文を入れてより長く働かざるを得ない状況に追い込まれることも多かったという。
『世事見聞録』によると、折檻にも色々あったらしい。例えば竹棒で打擲したり、裸にして火のし(金属の入れ物に炭火を入れたアイロンのようなもの)を押し当てたりという暴行だ。足抜けが失敗した遊女にはさらに厳しい罰が与えられた。着物を剥いで裸にし、猿轡をかませ、両手両足を縛って全身を天井から吊り下げた上で竹棒で殴打したのである。これを「つりつり」や「ぶりぶり」といった。こうした罰は、他の遊女への見せしめという意図もあった。

『尾尾屋於蝶三世談』/国立国会図書館蔵
※画像はお歯黒どぶに板を渡して、塀を乗り越えた遊女を逃がそうと手助けする様子。事が発覚した場合、脱走を手助けした人間も罰を受けた。