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【天空の寺】秘密基地のようなルートで高台の寺へ 三宝寺/神奈川県横浜市神奈川区

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第13回】


津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。


 

どうやって建っているのか。思わず見入ってしまう三宝寺の本堂。

■東海道を歩いていたら奇妙な柱を発見してしまう

 

 浦島太郎伝説で知られる慶運寺(けいうんじ)を拝観した日、そのまま東海道の神奈川宿を歩いていました。京急神奈川駅のホームと線路をまたいだ先の高台にお寺が見えます。こちらは幕末の開港直前からアメリカ領事館として使われた本覚寺(ほんがくじ)です。東海道はこの本覚寺に沿った道ではなく、左手の坂を上がっていきます。さて、このかつての東海道だった坂を進むと、すぐ右手に「三宝寺(さんぽうじ)」という奇妙な柱がひっそり建っていました。

 

三宝寺の柱の前(写真右下)から東海道の坂を望む。撮影:森田季節

 何が奇妙なのかというと、お寺の表示の前には明らかに寺院も参道も存在せず、1階が駐車場になっているマンションしかないからです。最初、隣の建物との間が参道なのかとも思ったのですが、さすがに狭すぎて違いますし、通行禁止を示す赤いコーンまで置いていました。おそらくたまに勘違いして強引に建物の隙間を歩こうとする人がいるのだと思います。

 

 坂の少し先に大綱金刀比羅神社(おおつなことひらじんじゃ)があるので、「あ~、神社に隣接して参道があるのかな」と思ったのですが、そんなルートはありません。ただ、神社境内から見上げると、はるか高所に寺院らしき建物が!

 

赤い鳥居の上に見えるのが三宝寺。マンションには三宝寺への行き方が書いた張り紙も。撮影:森田季節

 

 こうなったらマンションから参拝できると信じて、マンション1階のエレベーターのある共用部分に入ると「三宝寺 7階で降り階段を昇る」の張り紙が。これを信じてエレベーターに乗って7階で降り、さらに階段を上がります。ちなみにこのマンションは7階までしかないようなので上は屋上だけのはずです。屋上へ出るだろう扉に「三宝寺 御参詣の方はこのドアよりお入りください」の文字がありました。ルートとしては正解のようです。

 

 外に出ると典型的なマンションの屋上にスロープが接続されていて、寺院に入れるようになっていました。日本屈指の特殊な参道です。

 

 なんで8階相当の高さに寺院を作ったのかという疑問を抱かれる方も多いと思いますが、これは現地に行けばすぐ謎が解けます。マンションからのルートの逆側にも寺の入り口があるんです(というより現在ではそちらから参拝することがメインのはずで、マンションからの参拝はサブルートなのでしょう)。現在のメインの入り口は本覚寺をぐるっと回り込んで通っている急坂に接しています。土地の高低差が激しい地形のため、旧東海道の道から8階相当の高さまで上がったら地上に出てしまったというような構造になっているのです。

 

本覚寺から坂を登ったところにある三宝寺の入り口。こちら側がメインルートになる。

 もっとも、16世紀の末の草創という寺院が当初からこんな構造なわけもなく、急坂の側の入り口にあった案内板には江戸時代のかつての境内を描いた絵が載っています。ここまで境内が改変された寺院も珍しいかと思います。

 なお、帰路はこのまま坂を下ったほうが楽だったのですが、これだと通り抜けにマンションを使った形になってしまうので、マンションの階段を屋上から1階まで徒歩で下りました。

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森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

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