性的絶頂に達した状態「気がいく」【江戸の性語辞典】
江戸時代の性語80
ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。
■気がいく(きがいく)
男女ともに性的な快感が高まる状態を言うが、とくに男の場合は射精を意味することもある。
「気のいく」ともいう。
女のよがり声の「いく、いく」は、「気がいく」の意味である。

【図】気がいくのを覚えた女。『願ひの糸ぐち』(喜多川歌麿、寛政11年/国際日本文化研究センター蔵)
(用例)
①春本『願ひの糸ぐち』(喜多川歌麿、寛政11年)
感じ始めた女と男の会話。
女「気のいくということを、ようよう、このごろ知ったよ。そして恥ずかしいのも、少しこらえよくなってきた」
男「これほどいい気味をすることを知らねえで、初めての晩には、痛いからいやだの、よそうのと、罰のあたったことをよく言ったの」
図は、気がいくのを知った女。
②春本『泉湯新話』(歌川国貞、文政十年)
年増女は若旦那の筆おろしを頼まれた。
「おお、かわいい」
と、上へのっかり、我が手に魔羅をつかみ、開(ぼぼ)へあてがい、ぬらぬらと根まで押し込み、さっさっ と茶臼にて腰を使いながら、
「ああ、もう、それそれ、いきます。あなたはどうでございます。ええ、もう、それ、また、いきます」
と、腕の抜けるほどしがみつき、世間もかまわぬ大よがりに、若旦那も、
「あれさ、わたくしも、なんだか胸がどきどきして、ええ、それ、いっそいい心持ちだよ」
「それが、気がいくのでござります」
女主導で、若旦那を射精にみちびく。
③春本『天野浮橋』(柳川重信、天保元年)
武家屋敷に奉公している娘が休暇で実家に戻っていた。幼馴染の男と出会い、
女「それそれ、よくなってきたよ。奉公に出る前、吉さんと二、三度、したばかり。その時や、根っからよくなかったよ」
男「穴鉢二、三度は、そんなによくないものよ。十七、八から本当に気がいって、魔羅の味わいも、いいのも覚えるものさ」
「穴鉢」はセックスの意味であろう。
④春本『恋のやつふじ』(歌川国貞、天保8年)
佐世姫が初めて感じる。
姫はいまさら正体なく、
「あれ、あれ、まことによい心持ちだよ。これが気のいくと言うのかえ」
と、しがみついたる初音のよがり。
⑤春本『春色初音之六女』(歌川国貞、天保13年)
芸者の仇吉が、かつての恋人と久しぶりに交わる。
女「あれもう、おまはんは、なぜ、こんなに上手だろうねえ。わちきゃあ、普段は惚れちゃあいないけれども、悔しいように気がいきますわ。おお、もう、どうしよう、あれ、あれ、いきます」
男「さあ、仇吉、俺ももう、いくぜ」
[『歴史人』電子版]
歴史人 大人の歴史学び直しシリーズvol.4
永井義男著 「江戸の遊郭」
現代でも地名として残る吉原を中心に、江戸時代の性風俗を紹介。町のラブホテルとして機能した「出合茶屋」や、非合法の風俗として人気を集めた「岡場所」などを現代に換算した料金相場とともに解説する。