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女性器を表わす「開(ぼぼ)」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語78


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■開(ぼぼ)

 

 ふたつの意味がある。

1)女性器のこと。平仮名表記の場合も多い。

 時代や地方によって、女性器を表わす言葉は多様だが、春本や春画の書入れでは、開が一般的である。

 また、陰門や玉門、陰戸と表記しながら、振り仮名で「ぼぼ」と読ませることも多い。

2)性交のこと。「ぼぼ」と平仮名表記することも多い。

 

 開には、部位と行為と、ふたつの意味があることになろう。現代の代表的な卑猥語(四文字)と同じである。

 図は、画中に「上品、さね長、締まりあるぼぼ」とあり、名器の持ち主である。

 

【図】極上のぼぼの持ち主(『美多礼嘉見』渓斎英泉、文化12年/国際日本文化研究センター蔵)

(用例)

①春本『艶本葉男婦舞喜』(喜多川歌麿、享和二年)

 

 隅田川に浮かべた屋根舟の中で楽しむ男女。男が述懐する。

 

「舟でする開は、じっとしていても、波が腰を使ってくれるから、どうも言えねえ」

 

 この「開」は性交である。屋根舟では揺れの効果も楽しむことができた。

 

②春本『万福和合神』(葛飾北斎、文政四年)

 

 好き者の夫婦が、毎晩のように精を出す。

 

 夫「てめえの開(ぼぼ)のような、締まりのよい、風味のいい開は、この辺にはあるめえす」

 妻「あれさ、さあさあ、早くお入れな。いっそ、小粋な、好いた魔羅だのう」

 

 共に、相手の性器に満足しているようだ。

 

③春本『姫始仇初夢』(歌川国直、文政十二年頃)

 

 女と男の会話。

 

 女「ほんに、おめえのへのこは、まことに、憎いほどに大きいのう。ぼぼっこを突くばかりで、ほかの役に立たねえかのう」

 男「知れたことよ。ぼぼをするためのへのこだもの。どうなるものか」

 

 女の言う「ぼぼっこ」は女性器のこと、男の言う「ぼぼ」は性交である。

「へのこ」は陰茎である。第14回参照。

 

④春本『あなおかし』(沢田名垂著、文政年間)

 

 女の前を、ほとというは、いと古き世よりの名なるを、あづまのかたにては、ぼぼとぞ呼ぶめり。

 

 古くから女性器を「ほと」と称しているが、あづま(関東)では、「ぼぼ」と呼ぶ、と。

 

⑤春本『女護島宝入船』(歌川国麿、嘉永年間)

 

 女だけが住むという女護島(にょごがしま)に流れ着いた男。最初は、女はより取り見取りと狂喜していたが、

 

「できねえものを、骨を折ってしたり、人目を忍んでしたりするので面白いが、こう明けても暮れても役目でぼぼをするのは、随分つらいものだ」

 

 男は、ぼぼ、つまり性交が役目になると、つらいと述べている。

 

⑥春本『風流枕拍子』(歌川国麿)

 

男「こう、お好さん、おめえのぼぼは、なぜ、こんなにいいのだろう。へのこをちょっと入れると、すぐにいきそうになるぜ」

女「あたりめえさ。わたいのは、あつらえ向きだものを」

 

 お好と言う女のぼぼは締まりがよいようだ。男は陰茎を挿入した途端、射精しそうになると感激している。

 女は自信満々だった。これまで、多くの男を迷わせてきたのだろうか。

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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