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男の‟囲われている”女「囲い者(かこいもの)」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語67


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■囲い者(かこいもの)

 

 妾のこと。「手かけ」ともいう。

 

 とくに、男が本宅とは別に家を借り、そこに妾を置くのを「囲う」と言った。

 

 囲われている女が、囲い者である。

 

 図は画中に、「嘉永年間かこゐものの風俗」とある。幕末期の囲い者の雰囲気がわかろう。

 

【図】幕末期の囲い者。(『風俗三十二相』芳年、明治二十一年、国会図書館蔵)

 

【用例】

①春本『百入一出拭紙箱』(北尾雪坑斎か、安永三年頃)

 

 妾についての説明。

 

 お大名がたにては、御部屋など言う。下々には、御座直(ござなおし)、筵敷(むしろしき)、囲い者など言うなり。

 

 

②春本『股庫想志春情抄』(勝川春章、寛政七年頃)

 

 囲い者の女がすねるのを、旦那がなだめる。

 

「夕べも、また薬研堀の芸者めがところへ泊りなすったろう」
「そのような気を回さねえもんだ。てめえをこうして囲っておくからは、ほかの女にかまうものか」

 

「囲っておく」は、囲い者にすること。

 

 

③春本『笑本連理枝』(勝川春潮、享和二年)

 

男が、他人の囲い者の陰部をいじりながら、しみじみと言う。

 

「おまえを囲っておく旦那は、しあわせな人だ。くじってさえ、指へぬらぬら、ぴたぴたと吸いつく」

 

 女は名器で、いわゆる「蛸つび」なのであろうか。

 

 蛸つびは、第24回を参照。

 

 

④春本『風流色歌仙』(西川裕尹か)

 

 富裕な男の囲い者について。

 

 さる歴々の囲うて置きしお妾、酒もよほどきこしめし、いやならぬ風俗、器量は言うまでもなく、心は吉野の花盛り、二十五歳、うまみのある最中、

 

 囲い者は二十五歳で、セックスはまさに熟しきっていた。

 

 

⑤春本『夢多満佳話』(渓斎英泉、文政六年)

 

 男が妾と情交しながら、うそぶく。

 

「こうして、囲い者をしておくのも、好き次第に楽しむためだ」

 

 女房とは羽目を外した行為はできない。しかし、囲い者とはいろんな性技を楽しめた。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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