古代の人々の暮らしや文化を体感する方法とは? “古代体験”のススメ
[入門]古墳と文献史学から読み解く!大王・豪族の古代史 #096
遺跡を発掘すると、さまざまな時代の遺物が出土する。それは旧石器時代の石器だったり縄文・弥生時代の土器や道具類だったりする。考古学に「どのようにそれを作ったのか?また使い心地はどんなものか?」という研究がある。遥か遠い過去を生きた人々の営みに、思いを馳せてみよう。
■謎多き古代日本の技術と生活を探る

高槻市安満遺跡公園に展示されている、弥生時代の道具(杵は重い!)や珍しい竪穴式住居の骨組み展示。
撮影:柏木宏之
旧石器時代に使用された石器は、どのような方法で石を割って形作ったのでしょうか? それを知るために、まず出土した石器の原石が何かを突き止めて同じ石を採取します。そして、打ち欠いて整形したのか、熱を加えて割ったのか、石の特性と完成品の用途によって実験的に再現します。
次に完成した石器を実際に使ってみて、斧やナイフなどであれば切れ味を確かめ、石臼なら食糧加工法と効果を実際に確かめます。ちなみに、黒曜石のナイフの切れ味は実に鋭いのだそうです。
縄文時代に発明された土器はどんな工程で作られているのでしょう? まず使われているのと同じ土を採取し、捏ねた土を縄状にして、それを丁寧に巻き上げるように積み重ねて整形します。縄文土器には優れた造形を見せるものもあるので、同じように作ります。形ができたら縄目模様などを丁寧に再現します。そして乾かしてから野焼きをしますが、その時に割れるなどの損耗率(そんもうりつ)も観察します。そうすると作った縄文人の気持ちまでわかるようです。
その後、弥生時代には青銅器や鉄器が使われていますし、古墳時代には埴輪(はにわ)や銅鏡、鉄剣などの副葬品がどんどん進化します。これらの再現も非常に重要です。銅や錫(すず)、鉛、鉄がどこで採取されてどういう混合がなされているのかという材質の研究もしなければなりませんし、それによって海外との交流も研究できます。
中にはそうして作った道具を使い、再現した衣服を実際に着て、竪穴式住居に暮らしてみるという体験をする人もいます。こういった研究方法を「実験考古学」と呼びます。当時の文化を正確に再現したうえで実際に使って生活体験をしてみると、当時の人々の感覚がより一層実感として理解でき、そこから更なる疑問や問題も発見されるのです。
飛鳥時代にはアジア地域からもたらされた文化が大いに吸収されます。そして奈良時代になると、工芸技術は極めて高度なものとなり、工芸品の数々が朝廷を中心に使われています。
平安時代には国風文化が花開き、雅な貴族文化が展開しますね。例えば静かな夜に空を見上げて、星が瞬いていたり大きな満月がのっそりと山の稜線から出てきたりすると、現代の私たちもうっとりと眺めることがあります。平安貴族たちはそんなときに和歌を詠むのです。ふと古歌を思い出して呟いてみると、平安時代の人々の情緒に触れたような気になります。
綴られる史実は、すべてが真実ではないでしょう。脚色されたり歪曲(わいきょく)されたりとその時代の事情で真実を覆い隠すこともよくあります。それを研究して真実を導き出すのが文献学です。考古学では、出土遺物は実物である以上真実を証言する「物」であり脚色も歪曲もありません。ただ、それを正しく現代の私たちが理解できるかどうかにかかっています。ですから理解するために土器や埴輪を作ってみて実際に使ってみようというわけです。
遺跡公園などにはワークショップや文化教室が開催されていることがあります。訪れるチャンスがあればぜひ、土を捏ねて土器を作ってみたり、錫や鉛を溶かして型に入れて銅鏡のレプリカを作ったりしてみましょう。
土の粘性や手触り感を知って、造形する感覚を味わってください。鋳型(いがた)から出された小型の神獣鏡(しんじゅうきょう)の鏡面を一生懸命磨いてみましょう。なかなか骨の折れる作業ですが、きれいに磨けたら自分の顔を映して見てみてください。現代の鏡とは違う、古代の人が見たはずの鏡面の世界を楽しめます。正倉院に残されている豪華な鏡は、どんなお顔を映したのかと想像をたくましくすることができますよ。

筆者が奈良県明日香村キトラ古墳壁画体験館にて「鏡作り体験」をした時の写真。右は磨いている途中の鏡面。
撮影:柏木宏之
研究者や学者ほどの本格的な体験はできませんが、観光気分でも日常生活の中でもちょっとしたきっかけで私たちの遠いご先祖様たちの暮らしや感情を味わうことができるのです。