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美少年、イケメン、男色の相手、男娼のことを「若衆(わかしゅ)」と呼んだ【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語53


我々が普段使っている言葉は時代とともに変化している。性に関する言葉も今と昔では違う。ここでは江戸時代に使われてた性語を紹介していく。


 

■若衆(わかしゅ)

 

 多様な意味がある。

 

①美少年のこと。現代語のイケメン。
1は画中に「下輩の若衆」とある。つまり、商家の奉公人など、身分の低い美少年。

 

【図1】『艶本葉男婦舞喜』喜多川歌麿、享和二年、国際日本文化研究センター蔵

 

②男色の相手のこと。男同士の恋人である。

 

③男色を売る男娼のこと。いわゆる、陰間。
2は画中に「芳潮の若衆」とある。つまり、芳町の陰間である。
芳町は陰間茶屋が多数あり、江戸有数の男色地帯だった。

 

【図2】『艶本葉男婦舞喜』喜多川歌麿、享和二年、国際日本文化研究センター蔵

 

【用例】

 

①春本『百色初』(宮川春水、明和中期)

 

 大身の武家の屋敷。腰元が、武士が小姓と肛門性交をしているのをのぞき見て、しみじみ言う。

 

「旦那さまは若衆がお好きだ。あったら事をわたしらをして、嬉しがらせたらよいに」

 

 この「若衆」は、美少年や、男色の相手の意味。

 

「あったら事をわたしらをして」は、わかりにくいが、わたしら腰元と情事をして、喜ばせてほしいものだ、という意味。

 

 つまり、女が若衆に嫉妬していることになろう。

 

 

②『遊色妹背種』(北尾重政、安永三年)

 

 小間物屋の清三郎は若衆あがりの器量よし、

 

 この「若衆」は陰間である。

 

 陰間は若い男が好まれたので、二十歳すぎるとみな商売替えをした。

 

 清三郎は陰間を引退したあと、小間物屋に奉公したのである。器量よしというので、イケメンだった。

 

 

③春本『閨中膝磨毛』(文化~嘉永)

 

 九次郎兵衛は府中(静岡市)の商家の主人だったが、若衆に夢中になり、

 

 身代にまで途方もなき穴を掘りあかして、とめどなく、尻の仕舞は尻に帆をかけ若衆とふたり、府中の町を駆け落ちするとて、

 

 浪費で経営を破綻させ、九次郎兵衛は若衆とふたりで府中から逃げ出した。

 

 ここの「若衆」は、男色を売りとする男娼、つまり陰間である。

 

 「穴」や「掘り」「尻」を散りばめ、洒落のめしている。

 

 

④春本『開談遊仙伝』(歌川貞重、文政十一年)

 

 奥女中が、殿の小姓を見て、

 

「あの若衆、姿のかわゆらしさ。ほんに浮世はままならぬ」

 

「若衆」は、若者、若い男の意味。小姓がイケメンということであろう。

 

 もしかしたら、殿の男色の相手かもしれない。

 

 

⑤戯作『千草結ひ色葉八卦』(勝川春章)

 

 若い色男について、

 

 この若衆、親のために芳町へ売られしに、後家客に請け出され、今は男妾となりている。何にしても達者な事の。

 

 ここの「若衆」は、イケメンの若い男の意であろう。

 

 この男は、親によって芳町の陰間に売られた。ところが、男遊びをしていた後家の客に見初められ、身請けされて、今は男妾になっている、と。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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