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性交のフィニッシュ時に男性器から出る液体「腎水(じんすい)」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語㊽


ここでは江戸時代に使われていた「性語」にスポットをあて、当時どのように使われていたのか、という用例とともに紹介、解説。現代の意味とは異なるニュアンスで使われていた言葉や現在とは意味が異なる言葉が存在。時間の経過とともに変化した言葉たちの意味を紐解いていこう。


 

■腎水(じんすい)

 

 精液のこと。漢方医学では、精液は腎臓で作られると考えられていた。

 

【図】腎水を放ったあと。(『逢身八契』歌川国貞、文政十年、国際日本文化研究センター蔵)

 

(用例)

①春本『閨中膝磨毛』(文化~嘉永)

 

 長命丸の能書きに曰(いわ)く、腎水を増し、陽勢を強くす、と。

 

 長命丸は有名な媚薬である(第34回参照)

 

 効能書きによると、長命丸は精液を増加させ、陰茎の勢いを強化する、と。

 

 

②春本『女護島宝入船』(歌川国麿、嘉永年間)

 

 五琢と言う男が、女と情交する。

 

 たちまちに流るる淫水、湯よりも熱く、

「ああ、うう」

 と声も立てず、死ぬかと思うばかりのよがり、十二、三度も気をやる様子に、五琢もいまはこらえられず、同じく鈴口ふるい出す腎水あたかも滝の如く、

 

 淫水とは、女の陰部からにじむ液。鈴口は尿道口。

 

 五琢は盛大に射精したわけである。

 

 

③春本『艶情二葉の由来』(歌川国麿、嘉永五年頃)

 

 小さんという女を相手にしている男、とことん我慢していたが、

 

 両手で小さんを抱きしめ、腰を早めて、ずばずばと突き立てながら気をやれば、こらえこらえし溜め淫水、ズキンズキン、ドックドックと走って、

 

 男はついに射精したわけである。「淫水」と表記しているが、ここは男が出したのだから腎水、つまり精液であろう。

 

 

④春本『春色入船日記』(歌川国盛二代、嘉永期)

 

 春次郎は挿入したいのをこらえ、愛撫をつづける。

 

 春次郎も開中(かいちゅう)の締まりといい、あたたかみ、また、ふわふわと、やわらかきこと、真綿も及ばぬ肌ざわりに、腎水たちまち鈴口へ漏れんとするを、こらえ、こらえ、女に充分よがらせんと、さまざま秘術を尽すに、

 

 開中は陰部のこと。

 

 鈴口は、陰茎の尿道口のこと。春次郎が、あくまで女をよがらせようとしているのがわかる。

 

 

⑤春本『栄花男今様姿』(歌川国芳)

 

 豆右衛門の相手の女は、並外れた淫乱だった。

 

 豆右衛門も一世の力をへのこに入れて交わりしが、三、四番してもさらに抜かせず、精心尽きて腎水尽き、目がまわるゆえ、こりゃたまらぬと、

 

 豆右衛門が連続四回射精しても、女はなおも離そうとはしなかった。

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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