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アメリカ軍の太平洋飛び石戦略を支えた名機LVT

第2次大戦水陸両用戦車物語 第5回 ~泳ぎ、そして潜る! 水を克服した鋼鉄の猛虎たち~

ハリケーン対応の救難用車両が軍用に進化

沖縄攻略作戦「アイスバーグ」時、上陸海岸を目指して浮航中のLVT-4。貨物室前上部に防盾(ぼうじゅん)付きの50口径機関銃2挺が装備されている。乗り組んだ海兵隊員たちは不慮のアクシデントの際、すぐ海に飛び込めるよう車体側面縁部に腰かけているが、日本軍の防御砲火が届く距離になると、被弾を避けるため貨物室内に降りた。

 太平洋戦争勃発前の戦間期、アメリカ海兵隊は“ピート”エリス海兵隊中佐らによる、太平洋の島嶼(とうしょ)における水陸両用戦の可能性を検討していた。そのような流れの中で、1930年代中頃に発明家ドナルド・ローブリングが開発した、ハリケーン時の救難用水陸両用装軌式車両アリゲーターに関する記事が、アメリカのメジャー誌「ライフ」に掲載された。

 

 そこで海兵隊は、このアリゲーターをベースにした軍用水陸両用装軌式車両の開発に着手。船である上陸用舟艇(しゅうてい)とは違って、本車は、兵員や物資を載せたまま海から這い上がり内陸部まで運ぶことができる便利な乗り物だからだ。

 

 こうしてLVTLanding Vehicle Trackedの略)が誕生した。本車の最大の特徴は、浮航可能な浮力を備えた車体をスクリューによる推進力ではなく、水かきを付けた履帯が生み出す推進力によって前進させるという点である。

 

 19417月に完成した最初のLVT-1は無装甲で、1820名の完全武装の海兵隊員を載せることができた。同車はガダルカナル戦における後方輸送に投入され、その実用性を認められた。

 

 だが、LVT-1にとって初の強襲上陸作戦となったタラワ環礁ベティオ島攻略「ガルヴァニック」作戦において、多数のLVTが日本軍の熾烈な防御砲火を受けて損傷したり撃破された。

 

 そこで装甲防御を強化したLVTが生産される一方で、LVTに砲塔を取り付け、輸送能力こそなくなったものの水陸両用戦車化した型式が開発された。

 

 これら水陸両用戦車型には、37mm戦車砲を備える密閉式全周旋回砲塔を搭載したLVT(A)-175mm榴弾砲を備える上部開放式全周旋回砲塔を搭載したLVT(A)-4などがある。また輸送型のLVT各型にも、戦訓に基づいて装甲板が装着され、30口径や50口径、20mmの機関銃類が増設された。

 

 このようなLVTのうち、戦車型のものはアムタンク(AMTANK)、輸送型のものはアムトラック(AMTRAK)の通称で呼ばれた。太平洋戦争中盤以降、アメリカは中部太平洋の島嶼を蛙飛びのように攻略する飛び石戦略を実施したが、その際の強襲上陸における第1波は、海兵隊員を運ぶアムトラックと、彼らを火力で支援するアムタンクのコンビなくして成立し得ないといっても過言ではなかった。

 

 なおLVTはイギリス軍にも供与され、ノルマンディー上陸作戦やライン川渡河作戦で活躍している。さらに戦後は朝鮮戦争や、インドシナ戦争でもフランスに供与された本車が使用された。

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白石 光しらいし ひかる

1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。

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