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DD戦車:水面に浮いてぷかぷかと進むドナルドダック戦車

第2次大戦水陸両用戦車物語 第3回 ~泳ぎ、そして潜る! 水を克服した鋼鉄の猛虎たち~

側面を囲んだキャンバス製スクリーンで浮力を獲得

キャンバス製スクリーンを展張してライン川を渡河するイギリス軍のM4シャーマンDD戦車。上陸後はスクリーンを下げて戦闘行動に移る。1945年3月の撮影。

 第二次世界大戦の緒戦における連勝で、島国イギリスに急ぎ侵攻しなければならなくなったドイツは、水陸両用の戦車として潜水式を選択したことは前回に記した。

 

 これに対して、海からの上陸をより重視していた連合国、とりわけイギリスは、第一次大戦時にMk.IX浮航型を開発したように、どんなに水深が深い場所でも航行が可能な浮上航行式を好んだ。だが、もしも戦車の内部容積で得られる浮力だけで浮航させようとしたら、かなり装甲を薄くしたうえで車体を大型化しなければ「浮かせる」ことはできなかった。

 

 ところが、この問題についてユニークな解決策を考えついた人物がいた。ハンガリーで生まれた車両設計技師で、1933年にイギリスに帰化したニコラス・ピーター・ソレル・ストラウスラーである。彼は浮航できる戦車を最初から設計するのではなく、既存の戦車を改修することで「泳げる」ようにした。

 

 皆さんは子供の頃、湯船に洗面器を浮かせたことがあるだろう。洗面器が浮くのは、その内側の空間に十分な浮力があるからだ。ならば戦車の周りにスクリーンを張って、この浮力が得られるようにしてしまえばよいではないか。

 

 こう考えたストラウスラーは、戦車の側面全周に展張式のキャンバス製スクリーンを装着。戦車は浮航時にはこれを上に延ばし、洗面器のように浮力を得る。そして上陸したら、スクリーンを折り畳んで通常の戦車として地上を履帯で走行するというアイデアを思いつき、これを実用化した。

 

 なお、浮航時には履帯の駆動にともなう転輪の回転から動力を得て、車体後部に取り付けられたスクリューを回して航行する構造により、このストラウスラーの手になる浮航戦車はDuplex Drive Tank(複合駆動式戦車)と称され、DDの略称で呼ばれた。

 

 もっとも、現場の将兵たちは、本車が水面を低速でぷかぷかと浮航する様子から、DDの略称にちなんで同じ頭文字となるDonald Duck tank(ドナルドダック戦車)の渾名で呼んだが。

 

 DD戦車の試作はテトラーク軽戦車を改修して行われ、これが成功すると一定数のヴァレンタイン戦車が改修されて訓練に用いられた。そして実戦用としてはM4シャーマン戦車の75mm砲搭載型のうち、イギリスでは主にM4A4から改修されたがM4A2からの改修型も少数造られ、アメリカではM4A1から改修されている。

 

 M4シャーマンDDの実戦初使用は194466日のノルマンディー上陸作戦「オーヴァーロード」で、その後、南フランス上陸作戦「ドラグーン」、ライン川渡河作戦「プランダー」などにも投入されて大活躍した。

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白石 光しらいし ひかる

1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。

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