独自開発の汎用全天候第2世代ジェット戦闘機【サーブ32ランセン】
超音速時代の到来~第2世代ジェット戦闘機の登場と発展~【第4回】
第2次世界大戦末期から実用化が推進された第1世代ジェット戦闘機は、朝鮮戦争という実戦を経験して完成の域に達した。そして研究はさらに進められ、亜音速で飛行する第1世代ジェット戦闘機を凌駕する超音速飛行が可能な機体が1950年代末に登場。第2世代ジェット戦闘機と称されて、超音速時代の幕が切って落とされた。前シリーズに続いて本シリーズでは、初期の超音速ジェット戦闘機(第2世代ジェット戦闘機)について俯瞰してゆく。

編隊飛行中のランセン攻撃機型。スウェーデンはその地理的事情から、攻撃機には対地攻撃能力と対艦攻撃能力の両方を求めた。そのため本機には、初期の対艦ミサイルであるロボット04の運用能力が付与されていた。
スウェーデンは、戦前から火砲、戦車、軍艦、航空機などの各種兵器を自主開発し、時にはそれらの輸出やライセンス生産権の販売などもおこなってきた工業先進国である。中立維持のための国防意識が高いことも、同国の軍事産業の隆盛に好影響を及ぼしているといえる。
そのスウェーデンで航空機を得意とするメーカーであるサーブ社は、第二次世界大戦終結直後の早い時期からジェット軍用機の開発をおこなっており、アメリカ、イギリス、ソ連といった大国に劣ることなく、サーブ21Rや同29トゥンナンを次々に実用化した。そして、こうした戦闘機のジェット化の推進に続いて、双発爆撃/偵察機(攻撃機)サーブ18の後継となるジェット機の開発がおこなわれることになった。これがサーブ32ランセンである。
特にこのランセンでは、攻撃機や偵察機として全天候飛行性能が求められたため、搭乗員はパイロットとレーダー・オペレーター兼ナビゲーターの2名とされ、コックピットはタンデム複座式になっている。そして機首部にレーダーを収める必要性から、ジェット・エンジンのエア・インテークは主翼の付根に設けられた。
興味深いのは、ランセンはその設計に際してコンピュータが用いられた最初の航空機のひとつで、スウェーデンで開発された真空管式のBinär Elektronisk SekvensKalkylator (略称BESK)により、主翼の強度計算などがおこなわれたことだろう。
搭載するジェット・エンジンは1基で、イギリスのロールスロイス・エイヴォンをスウェーデンのスヴェンカフリューグモートル社(現ボルボ・エアロ社)でライセンス生産したRM5またはRM6であった。ランセンは水平飛行での音速突破はできなかったが、緩降下中であれば超音速飛行が可能である。
全天候戦闘機、攻撃機、偵察機の各型が生産されたが、一時期、スウェーデンでは核兵器の開発と保有が検討されており、ランセンには核兵器運用能力が付与される事も考えられていた。
ランセンは450機が生産されたが、このうちの約1/3が事故によって失われ、100名を超える搭乗員が死亡している。スウェーデンという極北の厳しい自然環境の中で、全天候機ということで晴天荒天にかかわらず昼夜を問わずの運用の結果であり、国防のためのやむを得ない犠牲と考えられているようだ。