日本を南北に分けるラインの上に位置する神社で「ロミオとジュリエット」を想う イソ部神社/兵庫県丹波市
神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第24回】
津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。

厳かな雰囲気のイソ部神社の境内
■風格漂う古社の湧水は、地理的に特殊な場所にあった
ゴルフ場の中にあるだとか特殊な場所に建っている神社はこれまでも取り上げましたが、今回は特殊な立地ではあるもののぱっと見は何が特殊かわかりづらいケースです。紹介するのは兵庫県の内陸、丹波市のイソ部(イソは山篇に石)神社です。和銅3年(710)の創建と伝わる古社です。ちなみに話がそれますが、この「イソ」という漢字、この神社の名前を表記する時ぐらいしか使用例がありません。「山」と「石」だけでここまでレアな漢字になるというのは不思議ですね。最寄り駅の石生(いそう)駅もたまに「いしなま」と呼ぶ人がいそうです。
さて、イソ部神社の境内自体は伝統のある古社の風格は感じられるものの、意外なものはありません。ですが、付近の案内板を見ると、「日本一」という文字が(なお、現在では「本州一」が正しいようです)。
これは何かと説明を見ると「谷中(こくちゅう)中央分水界」と書いてあります。中央分水界というのは水が日本の太平洋(瀬戸内海)側か日本海側かに分かれる境界のことです。その中央分水界の本州で一番低いところがこの丹波市の海抜95.45メートル地点で、その近くというか中央分水界上に立地しているのがイソ部神社なわけです。

イソ部の石清水
このイソ部神社、境内から湧水「イソ部の石清水」が出ています。普通に考えれば、湧水が出ているから信仰の対象になって神社が作られたのではないかということになるのですが、日本を南北に分けるラインの上に位置しているから信仰の場となったのではと信じたくなります。なお、さすがに完璧に神社がラインの上に建つことはできないので、神社はギリギリ南の瀬戸内海側にありますが、湧水スポットをグーグルマップで確認したところ、中央分水界からわずか数メートルしか離れていませんでした。ほぼ境目から水が湧いていると考えてよさそうです。

この道の左の水は瀬戸内海へ、右の水は日本海へ流れ込む
この中央分水界に沿って神社からしばらく歩きます。左の水は瀬戸内海へ、右の水は日本海へ行きます。数分進むと、「水分(みわか)れ」という名前の交差点が。原理的にはここから瀬戸内海側にも日本海側にも水を送り込めるわけで、ちょっとテンションが上がりました。ちなみに神社から「水分れ」交差点までの道中、道の左にも右にも池がありました。この水もそれぞれ全然違う場所に到達するんだな、リアルな「ロミオとジュリエット」だなと思いました。水の話だから全然リアルな「ロミオとジュリエット」ではなかったですね……。
岬の先端だとか、九州最南端の駅だとか、隅の場所に行くとテンションが上がる人もいると思います。そういう方はぜひ、本州一低い境目にもおいでください。絶景があるわけではないですが、ここは確実に特別な場所です。