性的な興奮により滲み出る液体を「淫水(いんすい)」という【江戸の性語辞典】
江戸時代の性語90
我々が普段使っている言葉は時代とともに変化している。性に関する言葉も今と昔では違う。ここでは江戸時代に使われてた性語を紹介していく。
■淫水(いんすい)
一般には、性交時に性器から出る液体のことだが、春本・春画では女の陰部からにじみ出る、あるいはあふれる液体をさすことが多い。吐淫(といん)ともいう。
女の陰部は普段でもうるおっているが、性的に興奮すると膣内に粘液がにじみ出て、なめらかになる。この粘液が淫水である。
男の精液を淫水と称することもある。
【図】は、男が女の胯に手を差し込み、指で淫水をたしかめているところ。

【図】指で淫水をたしかめる。『艶本婦多津枕』渓斎英泉/文政6年頃、国際日本文化研究センター蔵
(用例)
①春本『艶本妹背鳥』(奥村政信、寛延元年頃)
吉原の太夫高尾に、小六という男がいどむ。
小六、古法の説く九浅三深中休、此処(ここ)を先途(せんど)と突き立て、突き立て、行なうに、
「これまで多く肌ふれしが、こうした殿ごに会いんせぬ、ああ、よいわいな」
と、流れ出る淫水は、とろろのねばりに異ならず。
さしもの高尾も、小六の秘術に陶酔した。
「九浅三深」は、第65回を参照。ここでは、浅く深く挿入しながら、中休みをしたようだ。
②春本『四季の寿き』(腎沢山人)
源三郎は友人の妻にいどむ。
さねがしらを無性にいらえば、
「あれ、およしなされませ、どうも、言い訳がござりませぬ」
と言いながら、尻をまわし、玉(ぼぼ)の中より、はじき出すように熱い淫水を出せば、自分はよし と源三郎、名代の大玉茎(まら)を、ねらいすまし、根までぐっと差し込めば、
「さねがしら」はクリトリスのこと。第31回参照。
③春本『花むらさき』(不明)
ふたりは、そこへ横に倒れ、無性にくじりまわせば、たまりかね、淫水は二本の指へ、あたたかに、ぬらぬらぬらとしたたり、
「あれさ、もう、いっそ、ふう、ふう、早くよ」
と、身もじりして、
男が二本の指で陰門を愛撫するうち、指は淫水まみれになった。女は陰茎の挿入をせがむ。
④春本『色能知巧左』(喜多川歌麿、寛政10年)
女を抱き、両股を割り込み、緋縮緬の二布(ゆもじ)かき分け、かき分け、手を入れば、ぬらぬらと濡れているをさいわい、指にてくじれば、淫水びょくびょくと出るを、
「二布」は湯文字のこと。腰巻で、女の下着である。
⑤春本『津満嘉佐根』(葛飾北斎、文政前期)
九平次はお総の陰部を指で愛撫する。
指先にていじるに、お総は股を広げ、小声にて、
「あれさ、あれさ」
と言いながら、握りし玉茎(たまぐき)を我が手ながら玉門へ押し当てるに、九平次は腰を開かせ猶予して、いよいよ指先を働かするに、早や玉門よりは淫水、しきりにあふれ出て、内股より尻のあたりまで一面にぬらぬらとして、
お総はもう挿入してほしいのだが、九平次は指の刺激をやめない。
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