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参拝料だけで温泉にも入れる寺院 そんな夢みたいな場所、知ってます 恐山菩提寺/青森県むつ市

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第6回】


津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。


恐山に到着。派手な色のない寺院に風車が彩りを添える。撮影:森田季節

日本三大霊山のひとつ恐山、そういった体験ができるかも

 

 全国レベルの知名度があるけど遠すぎてなかなか行けないという寺社というのがちょくちょくあります。その代表例が恐山(おそれざん)ではないでしょうか。なお、厳密には恐山菩提寺という曹洞宗寺院ですが、日本全国で恐山と言えば通じるので、恐山表記でいきたいと思います。

 

 自分が行った時は数年前なので今とはダイヤが変わっているかもしれませんが、八戸駅まで新幹線で移動し、そこから北上して大湊に11時13分に到着、タクシーで移動しておおむね11時30分頃に念願の恐山に到着しました。ちなみに、「恐山行きのバスは大湊ではなくて一個手前の下北から出てるのに」と思った方がいらっしゃるかもしれませんが、せっかくの機会なので大湊線を全線乗りたかったためです。ところでタクシーの車中、運転手さんが心霊現象の話をしてくれました……。やはり恐山を往復することの多い運転手さんはそういう体験をするものなんでしょうか……。

 

 さて、恐山は周囲の景観からして一般的なお寺とかけ離れた場所なのですが、今回取り上げたいポイントは温泉が湧いていて、参拝客が入れることです。お寺が宿坊を兼ねていてそちらに温泉があるようなところはあるはずですが、温泉地の公衆浴場的な、ほぼ湯舟と通路とプラスチックの風呂桶しかないオールドスタイルの施設が境内にあるお寺はほとんど例がないと思います。しかも、お寺の参拝料を払えば、あとは追加料金なしで利用できるので、いよいよ公衆浴場的な気持ちになります。

境内にある湯小屋の内部は温泉。男湯、女湯、男女入れ替え制、混浴の4つの湯小屋がある。撮影:森田季節

 周辺を散策してから帰りのバスまでの間に温泉につかりましたが、無茶苦茶暑い硫黄泉で、汗がひくのに時間がかかりました。バスまで少し時間があったのですが、結果的にちょうどよかったです。

 

 もちろん、温泉以外でも恐山は特殊なお寺です。本堂左手から荒涼とした真っ白な石の風景が延々と続きますが、石が両側でやたらと積んであります。いわゆる賽の河原(さいのかわら)ですね。ところどころ、煙が立っています。石を打ちつけてる観光客がいましたが、石の音というより硬質の金属をぶつけるような音がしていました。賽の河原的な景観も全国にありますが、恐山は別格です。

人の営みがあまり感じられない静かな異界。撮影:森田季節

 その奥に宇曽利湖(うそりこ)というカルデラ湖が広がっていて、極楽浄土的な景観を作っています。この湖、硫黄濃度が食用の酢ぐらい強いので通常の魚は生息できず、魚類ではウグイという魚だけが暮らしています。生き物の種類が限られてるせいもあるのか、やけに静かに感じました。ばくぜんと気味が悪い場所というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実際に参拝した恐山はやすらかな異界と言える場所でした。

 

 東北にお住まいの方を除けば大多数の人にとって訪れるのに時間がかかる恐山ですが、一回行って損はないです。

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森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

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