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【大炎上】「死んでくださーい」どころじゃない!? コンプライアンスのない時代のヤバい暴言(炎上の文学史)

炎上とスキャンダルの歴史


タレント・フワちゃんの「不適切発言」が大炎上している。同じ業界人に向けた中傷行為として世間を騒がせた本件だが、文壇でも、作家や評論家の間でトラブルは多く、とくにコンプライアンスなどなかった明治〜昭和期の作家たちの暴言は凄まじい。あらためて振り返ってみよう。


■「殺すぞ」とビール瓶で評論家を殴りつけた中原中也

中原中也(いらすとや)

 YouTuber出身のタレントで、テレビでも活躍していたフワちゃんが、芸人・やす子さんの「生きてるだけで偉いので皆優勝」というSNSの投稿に「おまえは偉くないので、死んでくださーい」というリプライを送った事件で大炎上中です。

 

 もともと誰に対してもフランクに振る舞う芸風のフワちゃんは、ふだんから「死ね」が口癖だったともいいます。ただし、「適切な言動」を定めたコンプライアンスが個人の私的な行動まで縛り付けている現代日本において、罪のない他人に「死ね」と言い放つような行為は極悪視されてしまいます。この一言だけで、タレントとしての死刑宣告を出されかねないでしょう。

 

 それではコンプライアンスの影も形もなかった戦前・戦後すぐの日本では、この手の問題はどうだったのでしょうか? もちろん、大いにありました。

 

 とくに今みると凄まじいのが、文豪たちの間でのトラブルです。たとえば、詩人の中原中也は、「殺すぞ」といって、評論家・劇作家の中村光夫の頭をビール瓶で殴りつけるという事件も起こしています。「卑怯だぞ」と咎められると、なぜか「オレは悲しい」と泣き出したそうです。

 

 中也は二人っきりで飲んでいるときはおとなしいのですが、大人数の飲み会では酒乱が爆発するという悪癖がありました。ひとりで騒いでしまう自分の酒癖を「ひとりでカーニバルをやっていた男」などと自覚もしていたようです(このほか、拙著『こじらせ文学史』でもエピソードを紹介しています)。

 

■悪口から見える「文学性」

 

 中原は、評論『堕落論』などで有名な坂口安吾に意中の女性を奪われ、坂口にむかって「やいヘゲモニー!」と遠くから叫んだこともあります。「ヘゲモニー」とは「権力者」というような意味でしょうか。

 

「えらそうにしてんじゃねぇ!」と言いたかったのでしょうが、陸上競技経験者で身長が180センチもあった坂口のことを、151センチで華奢な中原は恐れており、普段から1メートル以内には入ろうとしなかったという話があります。

 

 そんな中原中也から、太宰治も絡まれまくっていました。ただし、太宰はその場では言い返せず、あとで中原のことを「蛞蝓(なめくじ)みたいにでらでらした奴で、とてもつきあえた代物ではない」と言って嫌っていたそうです。悪口ひとつをとっても、文豪の作風と共通する部分があって興味深いものですね。

 

 

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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