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練習機まで出撃させた沖縄特攻の異常事態と終焉

沖縄戦と本土決戦の真実⑪

昭和20年4月6〜7日に300機が出撃

天草海軍航空隊跡(熊本県天草市/旧本渡市)にある、天草海軍航空隊・神風特別攻撃隊慰霊の碑。特別攻撃隊は、訓練だけで3名の殉職者が出たという。

 米軍が沖縄本島に上陸すると、いよいよ特攻も本格化した。海軍はそれを菊水(きくすい)作戦と呼び、陸軍は単に航空総攻撃と呼んだ。

 

 とはいえ、いろいろな手続きで手間取り、このような名称で出撃したのは4月6日からだった。4月1日から5日までに特攻機は171機出撃した。通常作戦機の出撃は528機にのぼった。これをみても、沖縄へ向かったのはすべてが特攻機ではなかった。

 

 海軍が菊水作戦と名付けたのは、最大の忠臣と崇められていた楠木正成(くすのきまさしげ)の家紋が「菊水」だったからだ。正成が鎌倉幕府が倒れた後の後醍醐(ごだいご)天皇による親政時代、誰が見ても不利でありながら逆臣・足利尊氏(あしかがたかうじ)の軍勢に立ち向かい、討ち死にした故事によっている。

 

 当時は子供時代から歌などを通じて教育されていた、日本人の常識であった。

 

 菊水1号作戦と第1次航空総攻撃は4月6日~7日、同時に行われた。最初とあって特攻機は約300機が出撃した。

 

 このうち、24機が体当たりした。もっともその大半は駆逐艦で10隻を数えた。このうち3隻は沈没し、他は損傷を与えただけだった。空母などは後方に配置され、被害を救おうとした。

 

 この特攻と合わせるように、戦艦「大和」が軽巡洋艦1、駆逐艦8隻を引き連れて出撃した。航空援護がない出撃なので、沖縄にはたどり着けまいと懸念された。

 

 だから出撃しないほうが良いという各艦長たちの声を抑えたのは、司令長官・伊藤整一(いとうせいいち)中将の「われわれは死に場所を与えられたのだ」のひと言だったという。

 

 大和艦隊は瀬戸内海を出撃した時から追尾され、4月7日、鹿児島県坊ノ岬沖でつかまり、魚雷や爆弾を浴びて沈没した。

 

5月3〜4日には201機が出撃し戦死者が増大

 

 4月中の菊水作戦・航空総攻撃は菊水4回、総攻撃5回だった。

 

 5月に入ると、4日、沖縄本島の陸軍(第32軍・軍司令官・牛島満/うしじまみつる/中将)による総攻撃が行われた。それに合わせて菊水5号作戦・第6次航空総攻撃を実施した。

 

 この特攻の結果は、文献によっては3日となっているものがあるが、3、4両日の結果として扱うのが合理的だ。

 

 それによると海軍136機、陸軍65機が出撃し、駆逐艦3、損傷艦7(軽巡洋艦1、駆逐艦6)などの結果を得た。

 

 駆逐艦「モリソン」には「対空砲火の中2分間の間隔で4機が連続突入、体当たりした。艦は大破し、よろめきながら午前8時40分沈没した」(安延多計夫/やすのぶたけお/著『あゝ神風特攻隊』)とある。

 

 こうして5月4日の特攻作戦は終わった。

 

海軍2431人、陸軍1020人の若者が戦死

 

 だが、その後も沖縄特攻は激しさを増した。その中で象徴的な例をあげると5月11日の特攻で、正規空母「バンカー・ヒル」への特攻で2機が体当たりした。沈没こそさせられなかったが、大損傷を与え、ついに戦場から退場させることに成功したのである。

 

 この結果、怒り狂った米指揮官・ミッチャー中将は、900機にのぼる艦載機で南九州一帯を無差別空襲するという報復に出た。

 

 菊水作戦と航空総攻撃は6月22日まで行われたが、最後は飛行機も足りなくなった。そこで海軍機上作業練習機「白菊(しらぎく)」まで動員して出撃した。さらに「赤とんぼ」と呼ばれた練習機まで動員して出撃させた。こんな異常な事態が、特攻作戦の実態だったのである。

 

 3カ月にわたった沖縄航空特攻で、海軍2431人、陸軍1020人の若者が戦死した。これほどの犠牲を強いて、特攻は実施されたのである。人権無視の時代とはいえ、日本軍が人間の命をいかに粗末にしていたか、それを思うと愕然(がくぜん)とする。

 

監修・文/森山康平

(『歴史人』2022年6月号「沖縄戦とソ連侵攻の真実」より)

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