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「契丹」と「遼」の歴史 ─大ヒット中国ドラマの題材となった国の魅力─

中国初の征服王朝「遼」という国


 中国の歴史は常に周囲からの遊牧民からの圧力に悩まされた。匈奴にはじまり、様々な遊牧民は独自に発展を遂げ、中国に迫った。
 数々の遊牧民勢力が乱立するなか、中国国内でTV 視聴率&配信ランキング1位となった本格歴史エンターテイメント「燕雲台-The Legend of Empress-」が描いたのが、中国北方で暮らしていた遊牧民・契丹族が樹立させた、中国初の征服王朝「遼」という国である。エンタメ業界で人気を集め、日本にも上陸するほど注目を浴びる「遼」という国はどんな国だったのだろうか。その歴史を深掘りするとともに、ドラマの主人公として描かれた伝説の皇后であり、実在した睿智蕭皇后という人物に本記事では迫りたい。


 

カリスマによる建国で優れた支配体制を確立
亡き後に生まれた権力争いで混乱する「遼」の朝廷

 契丹(キタイ)人は、モンゴル高原に住んでいた騎馬遊牧民です。

 

 モンゴル高原の遊牧民は、家畜を育てながら夏営地と冬営地の間を移動して暮らしますが、自然を相手にしたその生活は過酷です。とくに冬の寒さが厳しく、寒波の襲来で家畜が全滅、食料がなくなることも珍しくありません。野火や野生動物も脅威になります。また、城壁に守られてはいないので、外敵に襲われる危険も常にあります。こうした環境を背景に、遊牧民は尚武と団結の気風をはぐくみました。

 

 強力な指導者が現れると、遊牧民はそのもとにまとまり、外征に打って出ます。遊牧民の指導者に求められる役割は、軍事行動によって多くの戦利品を獲得し、それを公正に分配することです。指導者がこの役割を果たせていれば、その器量と軍事的才能にあわせて、集団はどんどん大きくなっていきます。

『燕雲台-The Legend of Empress-』より

 鉄砲が発明されるまで、弓矢は最強の遠距離武器でした。内燃機関が発明されるまで、馬は最速の乗り物でした。したがって、このふたつを自在に操る騎馬遊牧民は、最強の戦闘集団でした。彼らが団結して向かってきたら、定住民は抗うのが困難です。

 

 遊牧集団の戦闘目的として、まず交易路の保護があげられます。遊牧民にとっても商業は重要です。毛皮や皮革などを売り、絹織物や穀物などを買うのですが、その交易の舞台となるオアシス都市や交易路を支配下に入れて、商業活動を活発化させ、安全保障の対価を得ていました。

三彩牡丹文碗(遼三彩)契丹族が打ち立てた遼は高い文化をもち、独自の発展をさせた。こちらも遼独特の紋様である紋様が刻まれ、質の高い陶磁である。京都国立博物館蔵/出典:ColBase

 略奪も目的のひとつです。現代の価値観ではもちろん許されませんが、遊牧集団の略奪は生きるための経済活動でした。対象は主に家畜や動産ですが、より重要なのは人です。ものづくりの技能を持った職人などを本拠地に移住させ、手工業に従事させていました。

 

 短い間に勢力を拡大させる騎馬遊牧集団ですが、たいてい長続きはしません。主な原因は相続制度です。成人すると家畜を分け与えられて独立していく分割相続、そして実力と声望のある者が集団の長になるという慣習が、領土の細分化と内乱を呼んで、君主の地位の安定的な継承をさまたげるのです。逆に言えば、これらの問題を解消すれば、国はある程度存続します。

 

 こうした騎馬遊牧集団ですが、中華王朝と抗争を繰り広げたものとしては、まず匈奴、ついで鮮卑、柔然、突厥、ウイグルなどがあげられます。その後にモンゴル高原の覇者となったのが契丹です。

 

 八世紀から九世紀にかけて、ユーラシア東部では、三つの大国すなわち唐、ウイグル、吐蕃が鼎立していました(中国史だけ見ると唐が唯一の超大国ですが、近年は視野を広くしてとらえる流れになっています)。ところが、九世紀の中頃には三大国はいずれも弱体化し、戦乱の時代が到来します。

 

 ここで、契丹に英雄・耶律阿保機が登場しました。耶律阿保機は契丹の有力者の家系に生まれ、ひとつの集団をひきいていました。当時の契丹は、八つの有力な集団に分かれており、全体の指導者は話し合いで選ばれて、交代制で務めていました。耶律阿保機はこの体制を打ち破り、可汗(遊牧民の君主)の位につきます。西暦907年のことです。西暦916年には中国風の皇帝の称号も名乗りました。

 

 華北に目を向けると、唐の末期から、節度使から独立したテュルク系の将軍たちが割拠して、混乱の最中にありました。五代と呼ばれる時代で、皇帝を称した者もいますが、領土は狭く、政治体制も整っておらず、武装集団が民を抑圧しながら抗争を繰り返していました。耶律阿保機は、彼らとの争いを有利に進めて、力を蓄えていきます。

 

 耶律阿保機は単に戦に強いだけの人物ではありません。国造りの意思と能力を持っていました。鍵となったのは、定住民の活用です。当時、華北の戦乱を避けて契丹に移住した漢人が少なくありませんでした。略奪によって連れてこられた漢人もいました。彼らをモンゴル高原でも東部のほうの農耕が可能な地域に住まわせ、経済基盤を強化するとともに、行政に利用したのです。

 

 契丹が定住化、漢化したわけではありません。遊牧民は遊牧民のままです。国として、遊牧と農耕のハイブリッドで、発展していく道を選んだのです。ここに契丹の隆盛の鍵がありました。

遼中京遺址・大明塔遼は北方仏教の発展にも大きな影響を与えた国であり、現在でも遼が残した仏塔や仏教遺跡が多くみられる。

 耶律阿保機の死後、帝位は次男の耶律堯骨(太宗)が継ぎました。この相続のとき、乱れそうになる国を支えたのが、女傑として名高い述律皇后ですが、これは次回に詳述します。二代目の太宗は、華北の後唐の後継争いに介入し、石敬瑭の後晋建国を援助した見返りに、燕雲十六州を得ます。万里の長城の内側に領土を獲得したのです。

 

 その後、属国となっていた後晋が裏切ったため、太宗は南進して後晋を滅ぼし、華北を支配下に入れます。遼という中国風の国号に改めたのはこのときです。それ以前は契丹で、以後も遼と契丹の国号はどちらも使われます。これは契丹の国が、遊牧と農耕、ふたつの顔を持っていたためです。

 

 契丹の華北支配は長くは続きませんでしたが、燕雲十六州の領有は保たれます。なお、中国史の地図で燕雲十六州を確認すると小さく見えますが、これはまさに氷山の一角です。後背に広大なモンゴル高原や東北部の平野を有する遼は大国でした。

 

 後に宋が中国を統一すると、二代目の趙匡義(太宗)が燕雲十六州の奪取を狙って遼に挑みます。しかし、両者の国力を考えると、これは無謀な試みでした。宋軍はあえなく完敗し、撤退します。

 

 ただ、遼のほうは、皇帝の暗殺が続くなど国内が安定しておらず、宋を討つ余裕はありませんでした。余裕ができたのは、六代目の聖宗の治世です。聖宗は十二歳の若さで即位しています。権力争いが激しかった遼の朝廷が、幼帝のもとで安定したのは、摂政を務めた皇太后(睿智蕭皇后)の手腕によります。

『燕雲台-The Legend of Empress-』より

 睿智蕭皇后は五代目景宗の皇后で、聖宗の生母でした。歴代の皇后を出している名門一族の出身で、父は宰相に昇った人です。この父はあまり有能ではなかったようで、史書では政治面でも軍事面でも酷評されていますが、娘は違いました。皇后となってまもなく、父が暗殺されて後ろ盾を失いますが、朝廷で確固たる地位を築きます。

 

 皇太后となってからは、耶律休哥、耶律斜軫、韓徳譲といった文武の臣に補佐されて、政事に取り組みました。国内をまとめた睿智蕭皇后は、1004年、宋に対して大規模な軍事遠征を実行します。公称二十万ともいう遠征軍は、国内が盤石でないと組織できません。皇帝や宰相が次々と暗殺されるような状態から、そこまで体制を固め直した睿智蕭皇后と側近の政治力は、宋を統一王朝に育てた太宗と稀代の名宰相・趙普のコンビにも匹敵するでしょう。

『燕雲台-The Legend of Empress-』より

 この遠征は親征であり、睿智蕭皇后は息子の聖宗とともに、戦車に乗って指揮をとりました。その結果、契丹に有利な和約、澶淵の盟が結ばれます。宋は契丹に毎年絹や銀を贈り……つまりお金を払って平和を買うことになりました。

 

 澶淵の盟は世界史の教科書では太字で記載される重要事項です。この歴史的事件の一方の当事者として、類まれな政治手腕を持つ女性がいたことは、もっと知られてよいのではないでしょうか。

 

「燕雲台-The Legend of Empress-」DVD&Blu-ray

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「王女未央-BIOU-」ティファニー・タン主演!
愛と陰謀の渦中で、国家統一を果たした伝説の皇后の激動の生涯を描く、2021 年No.1 本格歴史エンターテイメント!

<STORY>
契丹(きったん)人の国である遼の北府宰相・蕭思温(しょうしおん)の三女・蕭燕燕(しょうえんえん)は、父親と長女・蕭胡輦(しょうこれん)、次女・蕭烏骨里(しょううこつり)の愛を受けて真っすぐで勇敢な女性に育つ。そして、彼女は漢民族ながら遼の朝臣である韓徳譲(かんとくじょう)と出逢い、国の未来へ大志を抱く2 人はやがて愛し合うようになる。一方、朝廷では暴君として恐れられる第四代皇帝・穆宗(ぼくそう)の座を狙い、権力争いが続いていた。そんな中、皇后を輩出する后(こう)族の筆頭である蕭家の三姉妹は、王位簒奪(さんだつ)の切り札とみなされていた。その結果、簫胡輦が穆宗の弟・耶律罨撒葛(やりつえんさつかつ)に、簫烏骨里が初代皇帝・太祖(たいそ)の孫・耶律喜隠(やりつきいん)に嫁ぐことに。残された簫燕燕は韓徳譲と婚約を結んでいたが、暗殺された前皇帝の息子で韓徳譲の親友である耶律賢(やりつけん)に見初められ…。

2021 11 日(水)リリース】
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話~第12  DVD6 /本編約540 /17,600 円(税抜16,000 円)
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毎月順次リリース

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予告編 https://youtu.be/yXu43W969YE

第1回 https://youtu.be/J66IEo7OTZE

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小前 亮こまえ りょう

らいとすたっふ

1976年、島根県生まれ。東京大学大学院修了。専攻は中央アジア・イスラーム史。2005年に中国歴史小説『李世民』(講談社)で作家デビュー。歴史小説を中心に、児童ものやノンフィクション、ミステリーも手がける。著書に『知られざる素顔の中国皇帝 歴史を動かした28人の野望 』(ベストセラーズ)、『姜維伝 諸葛孔明の遺志を継ぐ者』(朝日新聞出版)、『三国志』(理論社)、『朱元璋 皇帝の貌』(講談社)など多数。

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