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江戸時代の妾「囲者」というお仕事 第4回~職業紹介所で妾を案内~

江戸の性職業 #017

■職業紹介所で妾を案内

『絵本時世粧』

図6『絵本時世粧』(歌川豊国、享和2年)、国会図書館蔵

 囲者はセックスワーカーの一種だった。それが、前回記事の図5でわかる。

 

 そして口入屋(くちいれや)は、職業紹介所である。

 

 さて、図6は、口入屋の入口付近の光景。看板には、
「きもいりや 御奉公人口入仕候」
 と書かれている。

 

 肝煎屋は口入屋のことである。

 

 人物にはそれぞれ説明があり、右端の立っている女は、「月きわめのかこいもの」。つまり、月ぎめ契約で囲者をしている女。

 

 右から二番目の高齢の女は、「きもいりかゝ」。つまり、口入屋の女房。
 床几に腰をおろしている女は、「めかけの目見え」。つまり、囲者になりたくて、口入屋の面接を受けにきた女。

 

 左端は、「子もり」、つまり子守の奉公人である。

 

 口入屋で囲者の紹介をしていた。このことからも、囲者が社会的に認知された女の職業だったことがわかる。

 

 囲者がほしい男は、自分の好みや期間、予算などを告げて、口入屋に登録しておく。

 一方、囲者になりたい女も自分の要望などを登録しておく。

 口入屋はふさわしい組み合わせだと思うと、両者を引き合わせ、おたがいに納得すると、契約となる。
 囲者は仕事であり、当時の言葉では「妾奉公」だけに、口入屋があいだにはいって、きちんと証文(契約書)を作成し、たがいに取り交わした。

 

 なお、図6から、月契約の囲者もいたことがわかる。

 

 これは男の側からすれば、金に余裕がないので、せめて一カ月間でも囲者を持ちたいという念願であろう。また、一カ月単位で次々と女を代えて楽しみたいという男もいたろう。

 一方、女の側からすれば、時にはいやな男もいる。そんな場合、月契約なら、一カ月間だけ我慢すればいいのでと、リスク回避の意味もあったろう。

 

 ともあれ、口入屋で旦那がきまる囲者は、『江戸繁昌記』のランク付けでは「中」と「下」にあたるであろう。

 なお、『江戸繁昌記』によると、「下」のなかには、ひとりで五人の旦那を持つ囲者もいたという。

 これは、五人の男が共同で、ひとりの女を囲う方式である。

 

 これだと、男の負担は五分の一で済む。ただし、日を決めて、五人が均等に通う。この方式を、「安囲(やすがこ)い」と言った。

 

 ところで、戯作『好色一代女』(井原西鶴著、貞享3年)に、妾を抱えたい男が、希望を述べる場面がある――

 

「まず歳は十五より十八まで、当世顔は少し丸く……(中略)……足は八文三分に定め、親指反って裏すきて……」

 

 ――とあり、注目すべきは足の注文である。

 

 八文三分は足袋(たび)の寸法。

 

 足の親指が反るのは、陰部が名器である証拠と考えられていた。

 

 足の裏がすいているは、偏平足ではないという意味。 

 

まさに、商取引で品質に注文を付けるのと同じだった。

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、図説吉原事典(朝日新聞出版)、江戸の性語辞典(朝日新聞出版)など。

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