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傑作戦闘機の凋落:零式艦上戦闘機 52型

太平洋戦争日本海軍戦闘機列伝 第3回 ~海原の碧空を飛翔した日の丸のファイターたち~

1944年後半から生産が始まった零戦52型丙。20mm機関銃2挺と13.2mm機関銃3挺を装備した火力強化型で、60kg爆弾2発または30kgロケット弾4発を搭載できた。防御力も強化されていたが、これらが原因で運動性能がやや悪化している。

 

 太平洋戦争開戦直後の時期は、列強の戦闘機も零戦と同格の1000馬力級エンジンを搭載しており、零戦のように防御力を犠牲にした運動性能や速度性能、航続距離の向上は図られていなかった。これに加えて、日本海軍パイロットの練度の高さが、「機械的要素つまり零戦の戦闘機としての特性」と「人的要素つまりパイロットの腕」の相乗効果で、まさに「世界最強戦闘機」の名をほしいままにしたのだった。

 

 ところが、歴戦のベテラン・パイロットが戦闘によって逐次失われたうえ、列強が2000馬力級エンジンを搭載した戦闘機を投入してくると、零戦の優位は急速に失われてしまった。空戦技も、そのために零戦が開発されたといってもよい第一次大戦以来のドッグファイト(格闘戦)から、大馬力による高速を生かしたヒット・アンド・アウェー(一撃離脱戦)へと変化した。

 

 グラマンF6Fヘルキャット、ヴォートF4Uコルセア、リパブリックP-47サンダーボルトなど、2000馬力級エンジンを搭載して防御力にも優れた敵戦闘機のヒット・アンド・アウェーの前に、いくらゼロ戦が得意の運動性能でひらりひらりとかわしても「攻撃を加えて離脱。そしてもし敵機が落ちていなければ優位なポジションから再度の攻撃を加えて再び離脱」というように、2000馬力級エンジン搭載敵戦闘機は、好きな時に攻撃を加え、好きな時に戦闘から離脱する空戦の主導権を握ることができた。

 

 しかも防御力がほぼ皆無の零戦は、敵戦闘機のヒット・アンド・アウェー時の一撃を食らったら炎上なり大破することも多かった。このような状況にあって、ベテラン・パイロットが次々に失われてしまったことで、零戦は次第に窮地に追い込まれて行く。

 

 日本は肝心の2000馬力級エンジンの開発に手間取っており、零戦の後継機種の開発も思うように進んでいなかった。

 

 そこで1943年中頃から、エンジン出力を200馬力ほど強化し、エンジンの排気管をそれまでの集合排気管に代えて、排気ガスを機体を推し進める力に利用する推力式単排気管を採用。翼内燃料タンクに自動消火装置を備えることで、速度性能と防御力の向上を図った零戦52型シリーズの生産が始まった。そして同型は、零戦としてもっとも多い約6000機が造られた。なお、この52型シリーズにはいくつかのサブタイプがあり、生産中に火力や防御力の逐次向上が図られている。

 

 また、52型をベースに胴体下部の増槽懸吊架に増槽だけでなく250kg爆弾の搭載を可能としたのが、戦闘爆撃機型の零戦62型だ。鈍重な艦上爆撃機では、敵の艦上戦闘機に撃墜されてしまい敵艦隊まで到達できないことが多くなったため、軽快な零戦に爆弾を搭載した「戦爆」として運用することが考えられた。そのため62型の他に52型も爆弾を搭載したが、これらの機体は爆撃任務だけでなく、神風攻撃の体当たり機としても用いられた。

 

 零戦と同時代に誕生した列強の戦闘機、例えばイギリスのスーパーマリン・スピットファイアやドイツのメッサーシュミットBf109は、より高出力のエンジンへの換装と各部の改修によって、第二次大戦終戦後も第一線機として活躍している。「製造が簡単な機体は造れても、精密機械であるエンジンの開発生産技術には劣る」当時の日本の工業力の実情が、出現時は傑作戦闘機と目された零戦を、他国の例のように延命できなかった原因といえよう。

 

 なお、連合軍は零戦全般を“Zeke”のコードネームで呼んだが、主翼端が角型の零戦32型は別の戦闘機と考えられたため、“Hamp”のコードネームを与えられている。

 

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白石 光しらいし ひかる

1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。

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