朝鮮固有の文字ハングル誕生の真実を描く『王の願い ハングルの始まり』
歴史を楽しむ「映画の時間」第14回
朝鮮王朝の4代国王・世宗(セジョン)は、いかにして朝鮮固有の文字を作りだしたのか

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映画『王の願い ハングルの始まり』は、15世紀、朝鮮王朝の四代国王・世宗(セジョン)が、いかにして朝鮮固有の文字を作りだしたのかを描いている。
28文字(現在は24文字)から成る、いまは「ハングル」と呼ばれるその文字が生まれるまでの背景について、言語学者の野間秀樹(のま・ひでき)は著書『ハングルの誕生』でこう説明している。
《朝鮮半島にあって、およそ〈書かれたことば〉の全ては漢字、漢文で書かれていた。王朝の歴史のみならず、彼の地の、およそ書かれた歴史の時代から、その彼方、神話的な想像力の時代を書くときでさえ、漢字、漢文こそが正統なる〈文字〉であり、漢字、漢文で書かれたもののみが、正統なる〈書かれたことば〉であった。即ち、〈文字〉とは〈漢字〉のことであった》
つまり、話しことばである朝鮮語(韓国語)は口から発する音としてのみ存在し、その一音、一語を書き表すための文字はなかった。だから世宗は、自らのことばを求めたのだ。
《〈書かれたことば〉としての朝鮮語は、歴史の中で、未だ誰一人眼にしたことのないものであった。/15世紀、朝鮮王朝第四代の王、世宗と朝鮮王朝の知識人たちは、未だかつて誰も見たことのない、〈書かれたことば〉としての朝鮮語をこの世に出現させようとした。〈訓民正音〉、後に〈ハングル〉と呼ばれる文字体系を創出したのである》
世宗王が真に偉大であった理由、そしてハングル創製の歴史に埋もれた男たち

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「ハングル」は19世紀末の朝鮮語学者・周時経(チュ・シギョン)が名付けたといわれるが、その「ハングル」に、言語学的な探究だけでなく生きたドラマを見たのが本作の脚本も手掛けたチョ・チョルヒョン監督だ。
「世宗王が偉大だということは誰もが知っています。しかしそれは王が成し遂げた結果に対する評価です。本当に偉大なのは、葛藤や悩みなどの傷を克服する過程にあるのです」
ハングル創製から570年余り。その歴史に埋もれた人々の姿を蘇らせるため、監督は3人の名優をあてた。世宗に『パラサイト 半地下の家族』の主演俳優ソン・ガンホ。王妃にはチョン・ミソン。そしてハングル創製に尽力した僧侶シンミにパク・ヘイル。
さらに、韓国でユネスコ世界文化遺産に登録された「海印寺蔵経板殿」「浮石寺無量寿殿」「鳳停寺」での撮影を実現させたことで、彼らの演技に朝鮮王朝時代の血が注ぎ込まれた。
今では当たり前となった文字を書くという術を得た人々の歓喜

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ハングルを創製させた世宗は、当時、次のような思いを綴っている。
《愚かなる民は言いたいことがあっても、その情(こころ)を述べることもできずに終わる者が多い。予はこれを見るに忍びなく、二八字を制(つく)った。これもただただ、人々が習うに易く、日々用いるに役立つよう、願ってのことである》
士大夫ではない、それまで筆、紙、墨、硯の文房四宝と書き記す技を持たなかった人が誰かに思いを伝える。小枝と砂さえあればそれが叶う。文字を書くなど今では当たり前のことだが、その術を得た人々がどれほど歓喜しただろうか。
そういったことを、この作品は想わせてくれる。
日本では奈良時代だった8世紀に、日本語に漢字を借りて当てはめた万葉がなが生まれ、平安時代に入り平がな、片かなへと発達していく。
海を挟む。それだけで文字の起こりはこれだけ違う。
やはり歴史は面白い。
【映画情報】
6月25日(金曜日)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
『王の願い ハングルの始まり』
監督・脚本/チョ・チョルヒョン
出演/ソン・ガンホ、パク・ヘイル、チョン・ミソン、キム・ジュンハン、チャ・レヒョン、タン・ジュンサン
時間/110分 製作年/2019年 製作国/韓国
公式サイト