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「暴君」董卓(とうたく)と、織田信長との類似性とは?

ここからはじめる! 三国志入門 第22回

飛鳥時代の日本にまで、悪名が伝わった

 

 中国大陸の長い歴史上には「暴君」と呼ばれる人が何人も存在した。「酒池肉林」の殷(いん)の紂王(ちゅうおう)、秦(しん)の始皇帝(しこうてい)などはその代表格と評される。

 

 三国志の「暴君」といえば、真っ先に名前があがるのが董卓だ。その悪名ぶりは、蘇我入鹿(そがのいるか)が「董卓のようだった」と8世紀の『藤氏家伝』で批判されたほど知られていた。小説『三国志演義』の完成より、500年ほども前である。

中国の三國撲克(トランプ)に描かれる董卓。劉備・曹操・孫権と同じ「K」(キング)の扱いだ。

 出身は涼州(りょうしゅう)という西部の辺境地域で、若いころの彼は、親分肌で気前の良い人として知られていた。得た報酬をすべて部下に分け与え、遊牧民である羌(きょう)族の顔役たちとも親しく交流するなど人望も厚かった。

 

 馬術に長け、腕力も強く、馬上から左右の手で両側に弓矢を射るというケタ外れの武技も持っていた。後年になるが、伍孚(ごふ)に短刀で刺されそうになるも、とっさに身をかわして難を逃れているなど、優れた武人であったのは確かだ(『後漢記』)。

 

 そんな董卓が一躍、都(洛陽)入りしたのが西暦189年である。都で内乱が起き、宦官(かんがん)たちが漢の皇帝(少帝)を人質に取って脱出した。

 

 この混乱に乗じ、董卓はすかさず兵を進めて、宦官らを倒して皇帝の身柄の確保に成功。そのまま都に入り、軍事権を一手に掌握。都の者たちは「救世主」としてあらわれて一躍、宰相となった董卓のもとに、こぞって身を寄せたのである。

 

 こうして都を制圧した董卓、有能な人士を選抜し、適所へ派遣。当初は善政を布こうとの意図はあったようだ。とくに袁紹(えんしょう)、曹操(そうそう)といった中堅どころの官僚には先のことをいろいろ相談しようとした。ところが、彼らは董卓に使われるのを嫌って官職を捨て故郷へ逃げた。そのほか任用した者らも、こぞって董卓を裏切り、逃げた袁紹らと手を組んだ。粗野な地方軍人でしかない董卓が都を牛耳ることに、多くの者が反発した格好だ。

 

 董卓一番の「悪行」は、皇帝を彼自身の独断で替えたことであろう。少帝を玉座から降ろし、弟の陳留王(ちんりゅうおう/献帝)を帝位につけたのである。その理由として、少帝は話すことも満足できなかったいっぽう、献帝は幼いながらも聡明であったことが『献帝紀』などに記される。董卓は漢王朝のためを思い、帝位を操ったのかもしれない。

 

 だが、諸侯はこれに反発した。漢王朝に仕えていた者、董卓に重用され、従っていた者もこぞって反旗を翻した。以後、董卓は自身の権勢を誇るかのように恐怖政治をはじめ、暴君化していった。村祭りに参加していた農民をみな殺し、富豪を襲って金品を奪う。漢の歴代皇帝の墓から財宝を暴き、粗末な小銭を乱造し、物価を破壊した。

 

絶頂期での最期など、織田信長にも類似

 

 その絶頂期も、長くは続かなかった。都入りから3年後の192年、腹心の部下、呂布(りょふ)に誅殺(ちゅうさつ)されたのである。帝を脅かすほどの権力者となり、絶頂期での突然の最期。しかも一番信頼した部下に裏切られたあたり、全てではないが織田信長とも共通項がみいだせる。

 

 知っての通り、現在に伝わる『三国志』は、その後に覇権を手にした曹操が築いた魏を正当として作られた歴史書だ。よって、董卓の暴政はことさら大げさに書かれた可能性も否定できない。

 

 董卓が死んだとき、町中の人々は喜び、お祭り騒ぎをした。いっぽうで、高名な文学者・蔡邕(さいよう)が董卓の死を嘆き、なきがらにすがり付こうする者や彼の屍(しかばね)の灰を集めて埋葬した者もいた。強大な権勢の果てに董卓がめざしたものは何であったのか。今もって謎に包まれているのも、また信長と似ている。

 

(次回に続く)

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上永哲矢うえなが てつや

歴史著述家・紀行作家。神奈川県出身。日本の歴史および「三国志」をはじめとする中国史の記事を多数手がけ、日本全国や中国各地や台湾の現地取材も精力的に行なう。著書に『三国志 その終わりと始まり』(三栄)、『偉人たちの温泉通信簿』(秀和システム)、共著に『密教の聖地 高野山 その聖地に眠る偉人たち』(三栄)など。

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