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「三国志演義」の作者は、羅貫中ではないのか?

ここからはじめる! 三国志入門 第21回

3世紀に完成した歴史書が千年もの時を超え・・・

 

 前回(第20回)の記事を読んで「三国志(演義)の作者って、羅貫中(らかんちゅう)では?」と思われた方もいらっしゃるかもしれない。

 

 たしかに羅貫中を抜きに『三国志演義』は語れない。前回で解説した毛宗崗(もうそうこう)は、羅貫中が編んだとされる『三国志演義』を改訂したに過ぎない。そこで今回は、まず歴史書の『三国志』(正史)から『三国志演義』までの主な著者・編者(作者)について述べておこう。

中国で発行されている『三国志演義』の概説本のひとつ。原著・羅貫中、評点・毛宗崗という表示がある。

 三国志の原典は、3世紀の末ごろ、晋の歴史家・陳寿(ちんじゅ)が著した歴史書の『三国志』(正史)である。陳寿は非常に真面目な性格であったと思われ、信頼性の低い史料をほとんど採用せず、正確(と思われる)な情報を簡潔に記した。文字数は約37万字。無駄を極力省いた内容は、きわめて重要ではあるが、いってみれば「味つけのないご飯」のようでもある。

 

 その陳寿の『三国志』に、膨大な量の注釈を入れたのが5世紀の429年、裴松之(はいしょうし)という人だ。裴松之は、陳寿が採用しなかった様々な史料や文献の内容を引用し、さらに自分の解釈をも加えた。その量、原著に匹敵する約36万字。面白いエピソードも満載され、味気ないご飯(正史)に見事なスパイスを利かせた「裴松之の注釈」(裴注)入りの『三国志』が完成した。いま一般に出ている、ちくま文庫などの正史『三国志』は、すべて「裴注」入りである。

 

14世紀、小説の原型『三国志平話』が成立

 

 その後、『三国志』は中国の社会で、講談や芝居というかたちで語り継がれ、さまざまなアレンジが加えられていった。そういった過程で生まれたのが、14世紀の前半、元(げん=12711368年)の時代に「読み物」として形成された『三国志平話』である。

 

 くわしい内容は別の機会に譲るが、これはいわば講談のタネ本のようなもので、史実性はあまり重視されていない。のちの『三国志演義』にない型破りな展開、荒唐無稽な描写も目立つが、原典(正史)では見られなかった全体的な時系列の流れができている。コンパクトな小説の形でまとまり、『三国志演義』につながるストーリーラインが完成された。

 

羅貫中の本当の名前は「羅本」だった

『三国志演義』 成立の歴史

 こうした『三国志平話』などを原型としてできたのが、小説『三国志演義』である。成立は明(13681644年)のはじめ。14世紀後半ごろという。

 

 その作者とされるのが羅貫中だ。正確な名前表記では姓は「羅」、名は「本」、字(あざな)を「貫中」という。よって、名前は羅本(らほん)が正しいのだが、姓と字の「羅貫中」で定着している。諸葛亮を「諸葛孔明」、蒋中正を「蒋介石」(しょうかいせき)と呼ぶのと同じだ。

 

 羅貫中の生まれは元の末期。それから明代のはじめまで活躍したとされるが生没年は不明。生誕地は現在の山西省とも山東省とも、あるいは浙江省ともいわれ、まったくハッキリしない。

 

 それどころか、羅貫中が『三国志演義』をどんな経緯で作ったのか、本当に彼が書いたのか、編纂(へんさん)しただけかも分からない。謎だらけなのである。

 

 もう一人、施耐庵(したいあん)という人がいて、この人は『水滸伝』の作者とされている。『施耐庵墓志』という文献によると、実は『三国志演義』も施耐庵の作品で、弟子の羅貫中はその校正をしていただけであったという。ただし、この施耐庵は羅貫中以上に怪しく、実在したのかもわからない。

 

 なんとも、もどかしい話だが『三国志演義』は、さまざまな人によって作られた作品で「羅貫中」はそれを代表する存在と見るのが良いのだろう。中国でも日本でも『三国志演義』の原作者は「羅貫中」で、すっかり統一されている。

 

 李卓吾(りたくご)、毛宗崗など後世の作家が新解釈を交え、新たなバージョンの刊本をつくれたのも「羅貫中・三国志演義」あってこそなのである。少々むずかしい話になったが、ともかくも「三国志」という読み物がたどった、長い歴史を感じていただけたら幸いである。

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上永哲矢うえなが てつや

歴史著述家・紀行作家。神奈川県出身。日本の歴史および「三国志」をはじめとする中国史の記事を多数手がけ、日本全国や中国各地や台湾の現地取材も精力的に行なう。著書に『三国志 その終わりと始まり』(三栄)、『偉人たちの温泉通信簿』(秀和システム)、共著に『密教の聖地 高野山 その聖地に眠る偉人たち』(三栄)など。

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