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ドローンの実用化・実際の使用が始まる

ドローンが変える現代の戦争 第2回 ~アメリカ軍からテロ組織まで、 すべての軍隊が装備する驚異の飛行兵器!~

遠隔操縦機を生み出す礎となったデハビランド・クイーンビー(イギリス)

デハビランド・クイーンビー無人標的機(ドローン)のフロート付水上機型がカタパルトから射出されるのを見守るイギリス戦時内閣首相ウィンストン・チャーチル一行。1941年の撮影だが、ご覧のごとくこの時期には初期のドローンが実用化されていた。クイーンビーが水上機型なのは、硬い地上に車輪で着陸するよりも、やや柔軟な水面にフロートで着水するほうが、操縦の誤差の許容幅がわずかに大きいので遠隔操縦には都合がよいため。

 第一次大戦後の1920年代から1930年代にかけて、世界中で多かれ少なかれ遠隔操作で飛行可能な航空機の研究が行われていたが、特にイギリスのそれはかなり進んだものだった。1927年から1929年にかけて、同海軍はスタンダードE-1複葉練習機を改造した遠隔操縦機をテストした。その目的は、無人の標的機とするためだった。

 

 イギリスでは、継続的に他にもいくつかの実験が行われたが、1935年になると、デハビランド社が開発した優秀な複葉練習機タイガーモスを遠隔操縦機に改造したデハビランド・クイーンビーが造られた。元来、安定した操縦性能を備えたタイガーモスがベースとなったクイーンビーは、当時の無線操縦機としては優れた性能を発揮した。

 

 とはいえ、今日のドローンのように複雑な飛行を行わせるほどの遠隔操作での制御はできず、せいぜい離陸に始まって緩やかな旋回や上昇に降下、そして状況によっては破損を覚悟した着陸といったことができる程度であった。

 

 そのため、結局のところ対空射撃の演習に使用される無人標的機として利用されたに過ぎなかったが、クイーンビーで培われた遠隔操作技術は、より洗練された遠隔操縦機を生み出す礎となった。

 

 ちなみに、前回の本記事に記した『そもそもドローン(Drone)とは、蜂や蠅などの羽音のことだ。まあ確かにプロペラを用いて飛行する飛翔体は「羽音」を出すのでこう呼ばれるのはわかるが、実はドローンの言葉が充てられるようになるには、ちょっとした歴史があった』という既述の解答が、このデハビランド・クイーンビーである。本機は、当時としてはきわめて優秀な遠隔操縦機で、一部では知る人ぞ知る存在だった。

 

 そしてクイーンビーつまり女王蜂は、羽こそ持っており激しく羽ばたかせて周りの働き蜂に羽音で命令を出すが、自身は飛べないという習性にひっかけて、遠隔操縦機にドローンというあだ名が付けられたと伝えられる。

 

 こうして、戦間期という大戦争の狭間の時代、ついに初期のドローンの稼働が始まったが、この遠隔操縦機がさらなる進歩を示すのは、やがて勃発する「次なる戦争」、第二次世界大戦であった。

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白石 光しらいし ひかる

1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。

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