×
日本史
世界史
連載
ニュース
エンタメ
誌面連動企画
歴史人Kids
動画

馬の胸を引き裂き、人の頭を打ち砕く… ヒグマについて戦前の児童向け書籍に記された「凄惨な事件」とは?

歴史に学ぶ熊害・獣害


 

 今秋、秋田を中心に熊の被害が拡大している。連日ニュースで取り上げられ、改めて熊の脅威を思い知る日々だ。さて、日本の歴史において、熊との共存と危険性という課題は常に存在した。戦前の書籍でも、とくに北海道に生息するヒグマについて、その生態や危険性を解説したものが少なくない。今回は、そのうちの1つを紹介したい(以下本文引用部分は現代仮名遣いになおして掲載)。

 

 昭和8年(1933)に出版された『児童百科大辞典1』には、ヒグマの生態やその危険性がそれなりのボリュームで収録されている。ヒグマの項目で「ヒグマが他の動物を攻撃する様は、シシ、トラと反対に、極めて男らしく、公明正大で堂々と立ち向かい、狡猾で卑怯なことは決してしない。その点では古武士の面影を偲ばせる」と書かれているのは、なかなか興味深い。

 

 堂々としたさまを評価する一方で、「ヒグマの危険な時もやはり飢えている時である。その他子どもを連れている時も危険である」ということも記載されている。さらに、実例も挙げている。「20年ほど前のできごと」であることから、大正の頃の事件のようだ。

 

 それによると、たった2ヶ月のうちに馬が45頭、牛が数頭ヒグマの被害に遭うという事件があったらしい。続けて、とあるエピソードも紹介している。

 

 北海道内のある森で馬たちが草を食んでいたところ、1匹のヒグマが表れた。ヒグマは自分の存在に気付かない馬たちに忍び寄る。馬がその存在に気付いた時には時すでに遅し。慌てて散り散りになりながら逃げ出したがヒグマはあっという間にそのうちの1頭に追いつき、その背に一撃を加えたかと思うと、その体躯を持ち上げて地面に打ち付けたという。さらにその馬の胸のあたりを切り裂いてとどめをさした。次に逃げ出した馬たちの中で足が遅い1頭に目をつけ、すぐさま駆けていってその馬にも攻撃し死に至らしめたという。

 

 同書では「ヒグマの腕の力は実に強い。他の動物と闘って立ち回っているうち、そのあたりの木にぶつかって、回り一尺四五寸ぐらいの松の樹を折ることは平気であるという」と、その力の強さに言及している。また、「北海道にいるヒグマはよく牛を背負って逃げることがあるが、重い時には引きずったり、または後押しで押したりして運ぶという」とも書かれているから驚きだ。

 

 動物相手だけでなく人身被害にも触れており、「木こりが寒中火を囲んで暖まっているところへ、冬眠から驚きさめたヒグマが、突然後方からその頭を打ち砕き、即死せしめた例もあるという」とある。一応「児童向け」の百科辞典なのだが、じつに生々しい記載である。

『児童百科大辞典 1』より/国立国会図書館蔵

<参考>

■小原国芳 編『児童百科大辞典 1』/国立国会図書館蔵

KEYWORDS:

過去記事

歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

最新号案内

『歴史人』2025年11月号

名字と家紋の日本史

本日発売の11月号では、名字と家紋の日本史を特集。私たちの日常生活や冠婚葬祭に欠かせない名字と家紋には、どんな由来があるのか? 古墳時代にまで遡り、今日までの歴史をひもとく。戦国武将の家紋シール付録も楽しめる、必読の一冊だ。