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子どもが産まれるたびに丸呑み…「神々の父・クロノス」とは何者か? 予言をめぐる争いとゼウスの復讐


 ギリシア神話の神々は日本神話の神々とよく似ている。喜怒哀楽の感情が非常に強く、自分を崇め、供物を欠かさない人間には恩恵を施すが、自分をけなす者には重い罰を下すというように、正義とはおよそ無縁の極めて利己的な存在だった。ギブ・アンド・テイク関係の極みと言ってもよい。

 

 ゼウスやポセイドンのように好色極まりない神もいれば、アテナやアフロディーテのように処女を貫いた神もいたが、初期の神には鬼畜と呼ぶ方が相応しい神が少なくなかった。ゼウスの祖父ウラノスもそうなら、父クロノスの所業はそれに輪をかけたレベルだった。

 

 近代スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤの代表作に『我が子を食らうサトゥルヌス』という、おどろおどろしい作品がある。古代ローマの農耕神サトゥルヌスがわが子を丸呑みしようとしている場面で、ローマ神話のサトゥルヌスはギリシア神話のクロノスにあたる。

 

 クロノスが生まれたばかりのわが子を飲むのは、父ウラノスと母ガイアから、「お前は実の子に世界の支配権を奪われる」と予言されたからで、クロノス自身、父ウラノスの性器を切断し捨て去ることで支配権を奪った経緯があるだけに、その予言に心底怯えた。

 

 予言の成就を阻む手はないものか。神々は不死だから、どこかに封印するしかない。最も脱出が困難な場所はどこか。かつて父ウラノスは子が生まれるたび母ガイアの腹の中に詰め込むという非道を繰り返し、痛みに耐えかねたガイアとクロノスの共謀により手痛い報復を受け、支配権まで奪われる羽目となった。それと同じ愚を繰り返したくない。クロノスが思案すえ行き着いた結論は自分の腹の中だった。

 

 以来クロノスは姉妹のレアと交わり、子が生まれるたびに丸呑みをした。それを繰り返すこと5回。6度目の妊娠に気づいた時、レアが悲しみに耐えられず、ウラノスとガイアに相談したところ、両親は一計を案じてくれた。

 

 レアをクレタ島に連れていき、そこで出産させると、産着にくるんだ大きな石を赤子と偽ってクロノスに渡し、本物の赤子(ゼウス)は島の山中奥深くにある洞窟で育てさせた。

 

 やがて成長したゼウスはクロノスに嘔吐剤を呑ませることに成功。クロノスはまず産着にくるまれた大きな石を吐き出し、その後も吞み込んだ時とは逆の順番で5柱の子を吐き出した。5柱の神は感謝のしるしとして、ゼウスに雷鳴と燃え盛る雷電、雷光を与え、これよりゼウスは雷神になるとともに、クロノスに代わり、神々の支配者として君臨することとなった。

 

 一方、敗れたクロノスは彼に味方したティターン神族ともども地下の奥底に閉じ込められ、二度と解放されることはなかった。

イラストAC

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島崎 晋しまざき すすむ

1963年東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て、現在、歴史作家として幅広く活躍中。主な著書に『歴史を操った魔性の女たち』(廣済堂出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『仕事に効く! 繰り返す世界史』(総合法令出版)、『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ)など多数。

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