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「二つの中国は認めない」台湾や香港の自由を脅かす“中国の露骨”な行為 その裏側にある歴史的経緯とは?

歴史でひもとく国際情勢


 ロシアによるウクライナ侵攻は、多くの日本人に「もし中国が台湾に軍事侵攻したら」という懸念を起こさせました。ロシアのような軍事大国が古典的な軍事侵攻をするなら、同じく軍事大国である中国も侵略を起こさないという保証はどこにもないのです。実際に中国政府は、「台湾問題の解決」には軍事侵攻オプションも放棄しないと明言しています。

 

 もう一つ、かつて英領だった香港は、1998年に中国に返還された後も「一国二制度」のもと、特別行政区として自治が認められていました。しかし2020年に「国家安全維持法」が制定され、香港でも中国本土と同じ治安維持の法律が適用できるようになり、「一国二制度」は骨抜きにされてしまいました。

 

 我々日本人の目には、中国が露骨に台湾や香港の自由を脅かし、侵略しているように見えます。世界第二位の経済大国になり、台湾や香港を取り込まなくても経済的には困らないはずなのに、なぜ中国は、世界中の人から反感を買ってでも露骨な侵略をするのか、なぜ独立を認めないのか、とシンプルに思ってしまいます。今回はこの点について歴史の観点から考察していきたいと思います。

 

「一つの中国」の原則

 

 現在東アジアには、北京を首都とし中国大陸の大部分を支配する中華人民共和国と、台北を事実上の首都とし台湾島や澎湖諸島、金門島などを支配する中華民国の、「二つの中国」があります。

 

 簡単に「二つの中国」ができた経緯を整理しましょう。

 

 もともと中華民国は、1911年に起こった辛亥革命により清朝が倒れ、翌1912年に南京を首都に建国された国です。中華民国を率いた中国国民党(以下国民党)は、中国同盟会など独立運動組織の後継党として、1919年に建国の父である孫文によって設立されました。

 

 一方で、現在の中華人民共和国の母体となっている中国共産党(以下共産党)は、1921年に陳独秀らによって上海で設立された党です。設立の経緯やイデオロギーは異なるものの、中国の自主独立と民族の発展を掲げている点は共通しており、設立当初は二重党員も多くいたので、国民党と共産党は腹違いの兄弟のような存在です。

 

 国民党と共産党は深刻な対立を続けてきましたが、1937年に日中戦争が始まると、日本軍相手に両党は共闘し、19458月の終戦まで戦い抜きました。しかし翌1946年から再び対立が激化し、内戦が勃発。共産党の軍隊である人民解放軍が戦いを有利に進めました。経済政策に失敗したばかりか、政治腐敗や汚職によって人々の信頼を失った国民党軍は、1949年に台湾島に撤退します。

 

 中国本土では同年に中国共産党により中華人民共和国が建てられました。それ以来、両国は台湾海峡を隔てて睨み合いを続け、現在に至ります。

 

 かつて中華民国は、中国本土が自国の領土であるとして、北京政府に強く敵対していました。現在は「台湾」が自分たちのアイデンティティであると感じる人も増えており、「二つの中国」状態を維持したいという意見が大半を占めています。

 

 しかし中華人民共和国は「二つの中国」を強く否定します。彼らは現在も、中華民国が実効支配する領域を「固有の領土」であるとして、中華民国政府を「反乱団体による不法政権」とみなします。

中華人民共和国の重要な政治スタンスとして「一つの中国」という概念があります。中国国家は一つでなくてはいけないという概念です。

 

 1971年、国連で「中国」の議席は中華人民共和国であると認められた時も、「一つの中国」の論理によって中華民国が追放されました。外交でも、中華人民共和国は「一つの中国」の論理により、相手国に中華民国との外交関係の破棄を求めます。現在もバチカン市国をはじめ、中華人民共和国を認めていない国はいくつかあるのですが、これらの国に対し、中華人民共和国は自らを「正当な中国」であると認めるように主張しています。

 

<前編/後編:なぜ、中国政府は「台湾・香港の独立」を認めないのか? 『一つの中国』という大いなる野望が「一国二制度」を骨抜きにするの前編>

人民大会堂の中には「台湾庁」と呼ばれる部屋がある 写真/AC

 

 

 

 

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尾登雄平おとうゆうへい

1984年福岡県生まれ。出版社にて勤務する傍ら、世界史の面白いネタを収集するブログ「歴ログ-世界史専門ブログ-」、YouTubeチャンネル「歴ログ-世界史専門チャンネル-」を運営。歴史ライターとしても活動し、ビジネス雑誌、企業オウンドメディア、会報誌などに寄稿する。著者に『あなたの教養レベルを劇的に上げる 驚きの世界史』(KADOKAWA)、『「働き方改革」の人類史』(イースト・プレス)がある。

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