歴史的にはおかしくない? トランプ大統領の「領土拡大」 カリフォルニアやアラスカ買収で成長してきたアメリカ
歴史でひもとく国際情勢
日本時間1月21日未明、トランプ氏が米国大統領に就任した。就任演説では、移民とエネルギーに関して「国家非常事態」の宣言、「性別を男性と女性の2つのみ」にすること、メキシコ湾の「アメリカ湾」への改称などを表明。さらに、パナマ運河の返還要求など領土拡大への意欲を見せた。領土の拡大に関しては、就任前から「グリーンランド購入」の意欲を示し大きく話題になっているが、じつは米国は歴史上、何度も外国の領土を購入し、その地の資源によって富を獲得してきた。改めて、米国の領土拡大の歴史について見ていこう。
■トランプ氏による領土拡張発言の意図とは?

グリーンランドのアイスフィヨルド
2025年1月20日(日本時間21日未明)、ドナルド・トランプ氏が米国の第47代大統領に就任しました。
予測できない言動や数々の放言で、大統領就任前からすでに国際社会に大きな困惑をもたらしているトランプ氏ですが、もっとも話題になったのが「グリーンランドを買収する」という表明です。
その他にも「1970年にパナマ政府に譲渡したパナマ運河の返還の要求」、「カナダを米国の51番目の州にする」、「メキシコ湾を米国湾に改名する」などの領土拡張的ともとれる発言を繰り返しており、就任演説でも領土の拡大を誓いました。
グリーンランドには豊富な天然資源があるほか、中国やロシアから米国本土に飛来する大陸間弾道弾ミサイルの追撃対策など、軍事的にも重要なため、本気で購入を希望している可能性があります。ただ、何かの譲歩を引き出すためのディール(取引)を見込んだものかもしれず、正直よくわかりません。
■「領土の買収」自体は2017年にも行われている
現代の常識で考えると、すでに国際的に独立や帰属が認められている地域に対して買収や併合を主張するのは、とんでもない行為のように思えます。しかしながら、歴史的に「領土をお金で買う」ことは普通に行われてきました。
近年だと2017年、チラン島とサナフィール島という2つの島をサウジアラビアがエジプトから買収する合意がされました。
もっとも領土買収が行われた時期は19世紀です。この時代、米国は買収によって領土を拡大してきた歴史があります。
■戦争に備え売却されたルイジアナ、治安維持ができず手放されたフロリダ
1803年、米国はフランスから「ルイジアナ」を1500万ドルで購入しました。
ここで言うルイジアナとは、北中部モンタナ州から南部ルイジアナ州まで約214万平方キロメートル、現在のサウジアラビア(約215万平方キロメートル)と同じくらいの広大な領土です。
買収を決めたのは、当時フランス第一共和国の第一執政官であったナポレオン・ボナパルトです。ナポレオンは北米フランス植民地帝国の拡大を進めていました。しかしサン・ドマング(ハイチ)の反乱の拡大やイギリスとの新たな戦争の可能性により、北米植民地を諦め米国への売却を決めました。
これにより米国は、南部の港湾都市ニューオリンズをはじめ、大陸の南北を横断する交通河川として重要なミシシッピ川沿岸地域を獲得しました。この買収は米国政府にとっては悲願で、原住民を武力で排除しながら、新たな開拓地・入植地を西に広げていくことになりました。
1819年には、米国はスペインと交わしたアダムス・オニス条約により、フロリダを買収しています。
フロリダもまた、米国は長年スペインに購入を打診していたものの、断られ続けていたものでした。ところがスペインが本国の戦争によって財政難に陥り、フロリダの治安維持ができなくなったことで、米国への買収を認めました。
■メキシコから買収した広大な領土により始まったゴールドラッシュ
米国の西方への領土拡大は、1821年にスペインから独立したメキシコとの国境紛争を引き起こしました。
当時メキシコ領だったテキサスの独立運動に介入した米国は、メキシコとの米墨戦争(1846年〜1848年)を闘います。米国軍はメキシコ軍相手に連戦連勝し、首都メキシコシティを陥落させました。勝利した米国は、メキシコとグアダルーペ・イダルゴ条約を結び、領土割譲を認めさせました。
その領土とは、現在のカリフォルニア、ネバダ、ユタ、コロラドの大部分と、ニューメキシコ、アリゾナ、ワイオミングの一部という広大な領域です。米国はその見返りとして、1500万ドルをメキシコに支払っています。さらに米国は1853年にガズデン購入と呼ばれるメキシコとの領土交渉により、現在のアリゾナ州南部とニューメキシコの一部を買収しました。
この2つの領土買収により米国が獲得した領土の面積は約144万平方キロメートル。現在のドイツの面積の約4倍の領土を獲得した計算です。この買収により、米国は太平洋にまで領土を拡大することができました。
また、買収してすぐにカリフォルニアで大規模な金鉱が発見され、いわゆる「ゴールドラッシュ」が始まるのです。米国が得た利益、メキシコがこうむった損失は計り知れないものがありますね。
■寒すぎて役に立たないとされた「スワードの冷蔵庫」
1867年には、米国はロシア帝国からアラスカを720万ドルで購入しました。
アラスカは18世紀前半、シベリアからベーリング海峡を渡ってきたロシア人が植民地を建設していました。しかし、厳しい環境もあり定住したロシア人はほとんどいませんでした。
ロシア帝国はクリミア戦争(1853年〜1856年)で壊滅的な敗北を喫し、財政難に見舞われます。そこで皇帝アレクサンドル2世はあまり利用価値がないと思われていたアラスカの売却を米国務長官ウィリアム・H・スワードに持ちかけたというわけです。
スワードが進めたアラスカの購入は、一部で不評となり、寒すぎて役に立たない土地を買ったと揶揄する意味で「スワードの冷蔵庫」などと呼ばれました。
ところがまた幸運がおこります。19世紀後半に、アラスカで金鉱が発見されたのです。「冷蔵庫」は「金庫」に早変わりしたのでした。
■グリーンランド購入の合意は得られるのか?
さて、時計の針を現代に戻します。
トランプ氏の買収をめぐる発言やプロセスがあまりに乱暴すぎるため波紋を広げていますが、歴史を見てみると、「買収によって領土を広げる」こと自体はかなり行われてきたことがお分かりになったかと思います。とはいえ、「だから現代も領土買収は許されるのだ」というわけではありません。
現代の国際的な秩序がありますし、昔は気にしないでよかった「住民の民意」も重要です。すべてのプロセスを正しく行い、政府も住民も合意できるのであれば、米国がグリーンランドを購入するのも「物理的には可能」ではあるのですが、果たしてうまくいくでしょうか。