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田安家の種姫 VS 島津家の茂姫 次期将軍の正室争いを巡る大奥と一橋家の思惑とは?


大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第20回「寝惚(ぼ)けて候」が放送された。蔦重(演:横浜流星)は大田南畝(演:桐谷健太)を訪ね、今江戸で人気の狂歌の会への誘いを受けて新規路線の開拓を狙う。一方江戸城では、一橋治済(演:生田斗真)の息子の豊千代が次期将軍となったが、既に縁談がまとまっている茂姫と、10代家治が望む種姫のどちらを御台所にするかで田沼意次(演:渡辺 謙)が奔走することになった。今回は2人の姫について取り上げる。


 

■政争に翻弄された2人の姫君

 

  種姫は明和2年(1765)に江戸の田安屋敷で田安宗武の七女として誕生した。生母は松平定信と同じ香詮院である。実母は早くに亡くなっているので、兄同様宗武の正室・宝蓮院が養育した。

 

 安永4年(1775)、11歳の時に、第10代将軍・家治の養女として、江戸城大奥に入ることになった。しかしこの養子入りには謎も多く、将軍家の養女になったにも関わらず他家と縁組の話が進んでいたという形跡がない。従って、種姫を将軍継嗣の家基の正室にしようと考えていたのではないか、という説もある。

 

 とはいえ、3代将軍・家光以降は将軍の正室として五摂家か宮家の姫を迎えるのが慣例となっていたことを思えば、御三卿・田安家の種姫を御台所に……というのが家治の真意だったかどうかは何とも言えない。養母の宝蓮院が近衛家出身というのも、やはり弱い。

 

 ただ、田安家としては、血筋からして家基にもしものことがあった場合の「次期将軍」として期待していた定信が白河藩へ養子に入った時点で、「田安の将軍誕生」という悲願が叶わなくなった。ところが、種姫が家基の御台所になり、しかも男児を授かればその子はいずれ将軍の地位に就く。田安家の血を引く将軍が誕生し、定信も将軍の伯父として権力を握れる……という筋書きを思い描いた可能性は高い。

 

 一方の茂姫は安永2年(1773)に薩摩藩8代藩主・島津重豪の娘として誕生した。母は側室だった慈光院だ。ちなみに重豪の正室は保姫という。徳川宗尹の三女であり、一橋(徳川)治済の異母きょうだいにあたる。

 

 茂姫は最初の名を篤姫・於篤といい、後に天璋院が「篤姫」を名乗ったのはこの茂姫にあやかったものだった。茂姫は3歳の時に治済の息子・豊千代との婚約話がまとまり、薩摩から呼び寄せられて江戸城内にあった一橋邸で婚約者である豊千代と一緒に養育されるようになった。

 

 このまま上手くいけば何も問題はなかったのだが、家治の嫡男だった家基の急逝によって事態は大きく変わってしまう。最終的に一橋家の豊千代が家治の養子となって次期将軍に……という話にまとまったのだが、先述の通り将軍の正室は五摂家や宮家の姫を迎えることになっていた。一大名、しかも外様の薩摩藩の姫では御台所にはなれないという理論が成立してしまうのである。

 

 さて、大奥としては種姫と茂姫のどちらが御台所になったほうが良かったか。当時田沼意次と大奥の高岳は協力関係にあったと考えられている。田沼は大奥にもよく気を配っていたというから、大奥としてはひとまず田沼寄りの判断をしたかっただろう。種姫は将軍の養女とはいっても元々は田安家の姫であり、その背後には宝蓮院や松平定信がついている。田安家の権力が拡大すれば、高岳としても色々やりづらい……という状況ではあった。

 

 一橋家としても、既に縁談がまとまっている茂姫を無下にすることはできないし、それでは薩摩藩との間に遺恨も残る。先述の通り、重豪の正室・保姫は一橋家の姫だ。茂姫の生母ではないが、この繋がりから姻戚関係にある島津家が茂姫のバックにつくことは、やがて将軍の父とく地位を得ることが既定路線となった治済にとっても(少なくとも他家の姫が御台所になるよりは)旨味のあることだった。

 

 実際のところ、何が決め手になったのか、誰の思惑がこの結果を招いたのかは明確ではないが、結果として茂姫は近衛経熙の養女となり、近衛寔子(ただこ)として家斉と名を改めた婚約者の元に嫁ぐことになったのである。ちなみにこの“家柄ロンダリング”は、後に天璋院篤姫も踏襲している。

 

 種姫はというと、家基の急逝から3年後の天明2年(1782)、18歳のときに紀州藩主の嫡男で6歳年少の岩千代(後の治宝)との縁組がまとまった。御三家への輿入れと相成ったのである。

イメージ/イラストAC

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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