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参道と遊具がドッキング!? 奇跡のコラボにほっこりするお寺 長松寺/群馬県高崎市

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第23回】

 


津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。


 

名前の通り立派な松の木と本堂 撮影:森田季節

■文化財に片足突っ込んでいるようなすべり台

 

 今回取り上げるのは、すべり台のあるお寺です。こう書くと、「境内にすべり台のある寺社なんて日本中にあるだろう」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。

 

 寺社そのものにすべり台は必要ではありませんし、信仰上の意味も何もありませんが、敷地にすべり台のような遊具がある寺社は調べる気が起きないぐらい存在するはずです。寺社の中には保育園や幼稚園を経営しているところも多く、そういう寺社ではお子さん用の遊具も作られるからです。塀などで完全に幼稚園と寺社の敷地を分けている箇所のほうが多い気がしますが、中には本堂の近くに遊具がある例もあります。また、神社の中には事実上の公園になっていて、敷地に遊具が置いてある場所もよく見られます。神社の隅にブランコがある風景を思い出す方も多いでしょう。

 

 ではどうして今回すべり台のある寺院を取り上げるかというと、このお寺のすべり台は位置が絶妙なんです。これも見てもらうほうが早いと思いますので、写真をごらんください。

 

階段のよこに年代物のすべり台 撮影:森田季節

 

 正面の本堂に至るための10段未満の石段。日本中の寺社の参道で見られるちょっとした高低差ですが、その石段の真横にずいぶんと年代物のすべり台が! 遊具には違いありませんがあまりにも古風で、遊具というより文化財に片足突っ込んでいるようなコンクリート製のものです。

 

 幸い、すべり台の側面に古いタイルが貼られていて、簡単ないきさつが読み取れました。この石段は日の丸保育園に昭和28年に寄付されたもの。70年前のすべり台と考えれば、本当に文化財指定されてもおかしくありません。

 

 長松寺(ちょうしょうじ)は高崎の近代教育を担ってきた大切な場所でした。教育と長松寺の関係は古いです。早くも明治の後半から、当時の小学校に収容しきれない児童を教育する分教場として使われてきました。その後、私立の学校となり、昭和16年には日の丸保育園となり、幼稚園となり、最終的に平成に幕を閉じるまで長らく高崎のお子さんを育ててきました。かつての校舎らしき建物が今も境内に残っています。

 

 このすべり台もまだ保育園が現役で動いていた頃に作られたものです。おそらくできた当時は児童が楽しく使っていたんでしょう。一般のお寺の風景から考えれば異質ですが、地域の教育を担ってきた証拠がこの古いすべり台なわけです。まあ、最初に見た時は、そんなことも知らずに「変な位置にすべり台がある!」という反応になったのですが……(笑)。

 

児童の学び舎だったせいか、ほかにも境内にはおもちゃ塚というおもちゃを供養するモニュメントもあります。汽車の形をしているかわいい塚です。

おもちゃ塚 撮影:森田季節

 

 

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森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

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