「七両二分」は密通のこと【江戸の性語辞典】
江戸時代の性語88
我々が普段使っている言葉は時代とともに変化している。性に関する言葉も今と昔では違う。ここでは江戸時代に使われてた性語を紹介していく。
■七両二分
間男代(まおとこだい)のこと。俗に「間男代は七両二分」と言った。
夫ある女と男の密通に対する刑罰は過酷だったが、あくまで建前である。
実際は、夫ある女と密通したのが発覚しても、男(間男)が夫に七両二分を払えば内済(示談)が成立し、許される風習があった。
七両二分は庶民には大金だったため、実際にはもっと低い金額で内済が成立した。
転じて、七両二分は密通を意味した。

【図】間男が忍んできた。『華古与見』(歌川国芳、天保6年)国際日本文化研究センター蔵
(用例)
①春本『色長者』(西川裕尹か、明和8年頃)
間男じゃ、亭主に見つけられたときの命がけ。しかし、今どきの、なかなか、そのような短気な人もあるまい。金七両二分出せばすむこと。
「間男」は第46回を参照。
②戯作『為弄也説話』(蹄斎北馬、文化5年)
為弄也(いらいや)という男が妻と密通した現場を押さえ、夫が言う。
「待て、為弄也。目前、女房をとぼしたれば、まさしく間男ならずや。首代の七両二分、今、受け取ろう」
「とぼす」は、性交のこと。第11回を参照。
③春本『華古与見』(歌川国芳、天保6年)
亭主の留守、女房のもとに間男が忍んできた。女が寝ているのを見て、割り込む。
女「もうもう、あんまり来ようがおそいから、寝たふりをしていたのに、無遠慮な人だのう」
男「はははは、こいつぁ大笑いだ。どうで今夜は俺に貸し切りにした穴じゃあねえか」
女「おや、厚かましい、たくさんだよ。そして、損料はいくら出すえ」
男「なに、損料か。お定まり七両二分よ」
損料とは、業者から布団などを借りるときの料金。レンタル料である。
図は、寝たふりをした女に、間男が強引に割り込むところ。
④春本『花以嘉多』(歌川国芳、天保8年)
女が男の陰茎をほめる。男は自信満々である。
女「こういうのでされちゃあ、実のことだが、一生忘れられないねえ」
男「およそ道具は仲間一番の物。このあいだも横町の本阿弥が、どうかこれは間男でもしそうな道具だと言って、七両二分の折紙をくれやした」
「道具」は陰茎のこと。
本阿弥は刀剣鑑定家。刀剣を鑑定して折紙(鑑定書)を発行した。
⑤春本『仮枕浮名仇波』(歌川国政、安政元年)
お富と与三郎の情事の最中、お富の亭主が子分を連れて帰宅した。亭主が言う。
「間男の定(じょう)値段、七両二分もほしくはねえ。命ばかりは助けてやるが、腹のいるほど苦痛をさせるを、あまめに見せるが腹いせだ」
お富の目の前で、子分に命じて与三郎を散々に痛めつける。
亭主は七両二分による内済ではなく、間男を痛めつけるのをえらんだ。
[『歴史人』電子版]
歴史人 大人の歴史学び直しシリーズvol.4
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