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巨大スイッチボタンが背後にある!? ベッドタウンに出現した異質すぎる風景 熊野神社/東京都府中市

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第7回】


津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。


鳥居の背後にある物体はいったい?

神社裏手の鳥居奥にあるものは社殿でもなければご神体の巨石や巨木とも違う。不思議な石のお饅頭。撮影:森田季節

■レアな古墳の近くに神社がお引っ越してきた

 

 JR南武線の西府駅から徒歩10分弱、京王の分倍河原駅からも20分ほど歩けば着く、都市部の神社に学術的にも景観的にも極めてレアなものがあります。

 

 江戸時代の甲州街道の後継道路である国道20号の幹線に面して、「武蔵府中熊野神社古墳」の看板がデカデカと見えます。この時点で何か明らかですね。すごい古墳が境内にあります。

 

 まずは神社のほうにお参りしましょう。こちらの神社、奥の古墳と比べれば地味ですが、社殿は府中市の文化財になっている立派なものです。その社殿の奥に古墳がありますが、はっきり言って古墳という事前の情報を持たずに見ても古墳とは認識できないと思います。

社殿の奥にわずかに古墳の姿が見える。撮影:森田季節

 こちらの古墳は上円下方墳(じょうえんかほうふん)という貴重すぎるもので、見つかった2003年の時点では日本で3例目でした。そのあと発見は増えてきてますが、10例もないはずです。しかも、こちらの古墳、きれいに石で葺いて整備されています。離れて見ると、石でできた巨大スイッチボタンが置いてあるように感じます。土台部分が四角くて(下方)、上が丸い(上円)ので、たしかにスイッチボタン的な形状なんです。

 

 なお、古墳の裏手、つまり古墳奥に神社がある側に回り込むと、「熊野神社」と書いてある玉垣(神社を囲む柵)と鳥居があって、古墳を拝むような格好になっています。さも神社本来のご神体がこの古墳であるかのような構造ですが、神社自体は江戸時代にこの土地に移ってきたそうなので古墳との関係はないようです。ここに来たら10人中10人が、「きっと古墳が古来から信仰されていて、そこに神社が作られるようになったんだろうな」と信じると思いますが()。僕も最初は完全にそう誤解しました……。まあ、玉垣にも神社の名前が書いてるわけですし、原則で考えれば裏手から神社を拝んでねということですよね。

 

巨人用のボタンに見える。撮影:森田季節

 敷地内にはガイダンス施設もあって、このレアな古墳についても詳しく知れます。施設で展示されている復元後の写真を見ると、いよいよスイッチボタンにしか見えません。合成でウソの写真を作ったような強烈な違和感があります。東京のベッドタウンにある異質すぎる風景を、ぜひ東京近辺在住の方は見に来てください。

 

 

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森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

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