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フランス人は「日本人」をどう見ているのか? 「醤油がクサい」とクレームも… メディアが報じない“アジア人差別”と日本ブームの行末

世界の中の日本人・海外の反応


開催中のパリ五輪(オリンピック)では、さまざまな“疑惑の判定”が物議を醸している。日本でも柔道での「待て」をめぐる判定、バスケットボールでのファウル判定が話題だ。批判の中には「アジア人差別では」という声もある。これは、五輪直前にフランス・サッカー連盟の公式SNSが日本を「JAP」と表したことや、開会式で誤って韓国を「朝鮮民主主義人民共和国」とアナウンスしたことなどを紐づけての推測だろう。ここで改めて、フランスで日本人がどのように見られてきたのか振り返りたい。


 

■フェンシングのフランス代表が「かめはめ波」ポーズ

柔道の創始者・嘉納治五郎の像

 日本の漫画とアニメの人気はフランスでも高く、2000年に始まる日本文化の祭典「ジャパン・エキスポ」も年を重ねるごとに来場者が増え、現在では全国的な定例行事になりつつある。

 

 現在開催中のパリ・オリンピックでも、フェンシングの男子団体で銅メダルを獲得したフランス代表メンバーの4人が、アニメ『ドラゴンボール』で孫悟空が繰り出す「かめはめ波」のポーズをとり、叫んでいる姿が日本フェンシング初の五輪メダリスト・太田雄貴のⅩを通じて配信され、話題となった。

 

■フランスの柔道人口は、発祥国・日本の「約4倍」

 

 イギリスではカツカレー、ドイツではオニギリ、ヨーロッパ全体ではラーメンが人気を博するなど、日本発B級グルメの躍進は留まるところを知らずにいるが、同じく日本発の文化の中には、海外のほうがむしろ本場と呼べそうなものも少なくない。その代表格が「柔道」である。

 

 フランスの小説家モーリス・ルブランの生みだしたキャラクター、怪盗紳士のアルセーヌ・ルパンは柔道と空手をたしなむ設定になっているが、これは荒唐無稽な話ではなく、柔道や空手は実戦的な護身術、戦闘術として、ヨーロッパから中東の広い範囲で19世紀後半から受け入れが始まっていた。

 

 現在、フランスの柔道人口は約50万人を数えるというから、日本の柔道人口の約4倍に相当する。レベルが上がるのも納得である。

 

■フランスにおける差別の歴史

 

 このような現象だけを見ると、フランスは国を挙げて日本文化を大歓迎しているかの印象を受けるが、それは早計というもの。EU議会選挙で、極右が躍進を遂げた事実を忘れてはならない。

 

 2016年の大統領選挙以降、アメリカ社会の分断が叫ばれて久しいが、19世紀末に起きたドレフュス事件の例でも明らかなように、フランス社会の分断はアメリカのそれより古くて深い歴史を有している。

 

 日本のメディアはフランス人のイスラム蔑視ばかり取り上げ、東アジア蔑視にはできるだけ触れないようにしているが、誰でも情報発信ができるようになった現在では、長期留学や駐在を経験中、あるいは経験した当事者から生々しい差別体験を聞くのも容易になった。

 

「醬油を使った料理をしたところ、臭いとクレームをつけられ、アパートからの立ち退きを迫られた」、「東アジア発の感染症が流行するたび、『ばい菌』と罵られ、タクシーの乗車を拒否された」。どちらも筆者が知人から聞いた話であるが、このような体験談は枚挙に暇がない。日本人と韓国人、中国人の区別はできず、区別する必要性も感じていないように見受けられる。

 

■漫画・アニメの日本ブームは定着するか?

 

 日本とフランスの関係は幕末に始まり、それからほどなく、焼き物の包装紙に使われた浮世絵をきっかけとして、フランスに空前の日本ブームが到来した。

 

 このブームは黄禍論の高まりや第二次世界大戦で敵国となったことなどが重なり、いったん終息した。漫画とアニメに始まる現在のブームは、言うなれば第2次日本ブーム。

 

 これが文字通りのブームで終わるのか、一個のジャンルとして定着するのかは、現在のところ予測がつかない。良いものは残ると信じたいが。

 

 

 

 

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過去記事

島崎 晋しまざき すすむ

1963年東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て、現在、歴史作家として幅広く活躍中。主な著書に『歴史を操った魔性の女たち』(廣済堂出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『仕事に効く! 繰り返す世界史』(総合法令出版)、『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ)など多数。

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