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夜、男が女の寝床に忍び入る「夜這い(よばい)」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語64


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■夜這い(よばい)

 

 夜、男が女の寝床に忍び入ること。

 

 一般に、夜這いは農山村の風習と思われているが、実際には大都市の江戸でも横行していた。

 

 というのは、武家屋敷でも大きな商家でも、奉公人は住込みだった。つまり、若い男女がひとつ屋根の下で寝起きしていたのだ。

 

 さらに、当時の木造家屋は、仕切りは襖(ふすま)か障子であり、カギはなかった。図々しい男にとって夜這いは、し放題と言っても過言ではなかった。

 

 ただし、いつもうまくいくとは限らない。逆に、叱られ、大恥をかくこともあった。

 

【図】夜這いに失敗。(『泉湯新話』歌川国貞、文政十年、国際日本文化研究センター蔵)

 

 

【用例】

①春本『泉湯新話』(歌川国貞、文政十年)

 

 忠八は主人の留守をよいことに、主人の女房のお津美の寝間に忍び込んだが。

 

 忠八は、お津美が床へ夜這いにいって、締められて、油を取られる。

 

「締める」は、叱ること、こらしめること。

 

 上の図は、忠八がお津美に油を搾られているところである。だが、隣の部屋では、夜這いがまんまと成功しているようだ。

 

②春本『艶女萩の露』(川島信清、享保二年頃)

 

 夜這いと花盗人は仏も許されたり。思惑を少し言いかけて後に這(は)い行くもあり、また当座の出来心にて這うもあり。

 

 夜這いと花泥棒は罪ではないというのは、もちろん勝手な理屈である。

 

 女と約束して忍んでいく夜這いもあれば、なんの了解も得ずに押しかける夜這いもあった。

 

③春本『床すず免』(司馬江漢、安永元年頃)

 

 大きな商家。あたらしく雇われた女中の元へ、さっそく男が忍んで行く。

 

 ふけゆく鐘にようよう、人の寝静まりしを考え、かの女の元へと夜這い行く、恋慕の闇の暗がりを、どうやらこうやら女の部屋に忍び入り、顔に顔をすりつけて、なでおろせば、
「誰じゃ」
 と驚き言う口を押さえ、

 

 暗闇の中を進む様子がわかろう。

 

④春本『会本妃女始』(喜多川歌麿・勝川春潮、寛政二年)

 

 姉妹が寝ているところに、男が忍んできた。心に思うよう。

 

「夜這いなぞと寂しく洒落て、こんなわからねえことはねえ。……(中略)……妹の饅頭も食いたし、姉の蛸(たこ)も食いたし」

 

 姉にするか、妹にするか、男は迷っている。

 

 饅頭は陰部のこと。蛸は、「蛸つび」で、名器の意。

 

⑤春本『風流色歌仙』(西川裕尹か)

 

 妻の妹が泊りに来た夜、夫が忍んでいく。

 

男「内のものより、年若ゆえ、うまそうなと思い染めて、夜這いに来たわいの」
女「姉さんの目のあかぬうちに、早く入れて」

 

「内のもの」は、妻の陰部のこと。

 

 女は男が夜這いに来たのを歓迎している。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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