みんなが大好きなチョコレートを最初に食べた日本人は「岩倉具視」だった!?
「初めて」の日本史
甘くて美味しい、みんな大好きなチョコレートは、いつ日本に来たのだろう? そして、はじめて口にした日本人は誰だったのだろうか?

チョコレート
<チョコレートをはじめて口にした人の候補>
◆岩倉具視(いわくら・ともみ)…幕末、明治期の政治家。「岩倉使節団」としてアメリカ、ヨーロッパを見てまわった。
◆蘭学者(らんがくしゃ)…江戸時代、オランダ語を通じて西洋の学問を学んだ人たち。
◆慶長遣欧使節(けいちょうけんおうしせつ)…伊達政宗(だて・まさむね)が外交のため、慶長18年(1613年)にヨーロッパに派遣した使節団。
■「固形のチョコレート」を最初に食べたのは岩倉具視
チョコレート最初に食べた日本人は誰でしょうか?
食べた感想をはじめて記録に残してくれたのは、岩倉具視(いわくら・ともみ)という人です。明治4年(1871)からの足かけ3年間、アメリカやヨーロッパを巡ったときに口にし、「極上品(ごくじょうひん)の菓子」と絶賛しています。まだ日本では砂糖をふんだんに使った菓子が珍しかった時期ですから、驚きもひとしおだったでしょう。

岩倉具視(国立国会図書館蔵)
実は岩倉具視とその一行を、チョコレートを最初に食べた日本人としても間違いはありません。……「固形のチョコレート」に限るならば。
わざわざ限定するのは、チョコレートが、もともと飲み物として愛好されていたからです。
■チョコレートは「飲み物」だった!
チョコレートの主な原料は、カカオと砂糖です。カカオの原産地はアメリカ大陸の熱帯地域で、アメリカ先住民は、カカオの実を発酵させたのち、高温で熱してくだき、ドロドロにしたものにトウモロコシの粉を加え、バニラやスパイスで香りをつけて飲んでいました。味はともかく、滋養強壮(じようきょうそう)の効果が非常にあり、高価でもあったので、「神様の食べ物」と呼ばれていたそうです。
カカオとその飲み方をヨーロッパに伝えたのは、1492年にヨーロッパ人として初めて大西洋の横断に成功した冒険家のコロンブスとも、1521年に中米のアステカ王国を滅ぼしたコルテスと言われていますが、どちらにせよ、最初に伝えられたのはスペインでした。
カカオ自体は苦く、ヨーロッパ人の口に合いませんでしたが、砂糖やミルクを混ぜると大変おいしくなりました。飲むチョコレートは、茶やコーヒーと並ぶ人気のドリンクになります。
飲むチョコレートはオランダ船を通じ、日本の長崎出島にもたらされていました。寛政9年(1797)に長崎の遊女が出島のオランダ人からもらった物のリストに、「コーヒー豆1箱、チョコレート6つ」と記録されているのです。
この時期の飲むチョコレートはいまだ高級品で、日本では薬の一種と認識されていました。当時の医書にも、「人の睡眠を制し、心を明らかにして思想を敏捷にするとともに疲労を回復する」などと記載されています。
日本で最初に飲むチョコレートを口にしたのは長崎の遊女たちではなく、おそらく出島の役人か出島に頻繁に出入りする蘭学者の卵たちでしょう。しかし、日本人として最初に飲むチョコレートを味わった人はもっとさかのぼります。
伊達政宗が派遣した慶長遣欧使節団(1613~1620)が途中のメキシコで、ビスケットやパン、コーヒー、コンペイトー、キャラメルなどの菓子とともに、飲むチョコレートを味わっているのです。おそらくコーヒーは菓子の供、飲むチョコレートは胃腸と体調を整える薬用として提供されたのでしょう。

慶長遣欧使節団を率いてヨーロッパまで渡航した支倉常長
ちなみに、食べるチョコレートが開発されたのは1847年のことで、開発者はジョセフ・フライというイギリスの菓子職人です。それよりも食べやすい固形のミルクチョコレートの開発は1876年ですから、岩倉具視一行が食べたチョコレートは、現在で言うブラックチョコレートかダークチョコレートに近かったはずですが、それでも十分甘い菓子と感じられたはずです。