「キーウの幽霊」を生んだ局地戦闘機【MiG29フルクラム】
戦うウクライナ軍の兵器~大国ロシアとの死闘で活躍するウクライナ軍の兵器を紹介~【第2回】
2022年2月24日、プーチン大統領に率いられた大国ロシアは、隣国ウクライナへの武力侵攻を開始。これを受けて、ウクライナはゼレンスキー大統領の下に西側諸国の支援も受けつつ、祖国の防衛に奮戦。その戦いを支える、ウクライナ軍の各種兵器の横顔を逐次紹介して行く。第2回はMiG29フルクラム戦闘機である。

ウクライナ空軍のMiG29。垂直尾翼に黄色で描かれた同国の国章トルィズーブ(三叉槍)も誇らしげだ。
旧ソ連では、航空機の設計を各設計局で行っていた。その設計局の老舗のひとつがMi設計局である。同設計局は伝統的に戦闘機の設計に従事しており、第二次世界大戦中のMiG3、朝鮮戦争で活躍したMiG15ファゴット、ベトナム戦争や中東戦争で活躍したベストセラー戦闘機のひとつ、MiG21フィッシュベッドなどを生み出した。ちなみに、ファゴットやフィッシュベッド、フルクラムなどの固有名詞は、NATOが旧ソ連時代に付与した識別用コードネームであり、旧ソ連自らが付けた愛称ではない。
MiG設計局が手がける戦闘機は、軽量小型で運動性に優れる反面、航続距離はさほど重視しない限定された空域の制空権の維持に適した、いわゆる局地戦闘機がほとんどだ。傑作機MiG21に続いて、同設計局はMiG23フロッガーを世に送り出した。ところが同機は、前作のMiG21ほどの評価を得られなかった。
その後、アメリカがF-15イーグル、F-16ファイティングファルコン、F-14トムキャットの開発に着手すると、MiG設計局もMiG29フルクラムを設計。1977年10月6日に初飛行させた。同設計局らしい軽量で運動性能に優れた局地戦闘機として仕上がったMiG29の評価は良好で、ソ連崩壊後のロシアでも使われ続け、旧ソ連の一員だったウクライナも保有している。
2022年2月24日のロシア軍侵攻時、ウクライナ空軍は37機のMiG29を保有していたとされる。そして、ロシア空軍との戦いで、本機を駆って戦う「キーウの幽霊」のニックネームで呼ばれたウクライナ空軍のエース・パイロットのエピソードが一躍脚光を浴びた。
だがこのエピソードの真相は、首都キーウの防空に任ずるウクライナ空軍第40戦術航空旅団に所属するMiG29部隊全体の活躍の話であり、それを象徴する呼称として「キーウの幽霊」が用いられていることが、後にウクライナ側から発表されている。そして2023年8月25日に起きたウクライナ空軍機同士の衝突事故で、「ジュース」のコールサインで呼ばれるパイロットが事故死。その報道に際して、彼が「キーウの幽霊」の一員であったことも報じられた。
開戦以来、ウクライナ空軍は10機を超えるMiG29を失っているが、ポーランドやスロバキアから供与された機体で損失を補っている。しかし本機は制空戦闘機としてはパイロットの腕次第で優れた性能を発揮するものの、対地攻撃能力が弱いので、いわゆる「マルチロール機」としての能力に劣る。実は同空軍がF-16を切望するのには、このことも大きく影響している。