超古代人はどんな舟で海を渡ったのだろうか? 3万年前の航海を再現した一大プロジェクト
人類がアフリカを出てユーラシア大陸全体に広がっていったのは陸路でした。しかし私たちの祖先は大海原も渡って世界中に広がったのです。いったいどんな舟を使ったのでしょうか?
■海を越えて世界中に広がった人類の祖先
渡り鳥は自力で空を飛び海を渡って長距離を移動しますし、アサギマダラという蝶は小さな体で広大な海を渡って移動できます。しかし人類は舟という道具を発明しない限り、広大な海を渡ることはできません。
私たちは学問上は「ヒト科ヒト族のホモ・サピエンス(知恵のあるヒト)」という哺乳類です。約30万年前にアフリカで発祥して、陸伝いにアフリカ大陸からユーラシア大陸へと歩いて広がりました。なぜ歩いたかというと、食糧である獲物を探し毎日追いかけたからだと考えてよいでしょう。旧石器時代は定住せず、毎日寝床の変わる遊動生活でした。
そして祖先たちは海岸に到達します。ヒトは一か所にとどまらず、たとえ陸地の見えない大海原であっても進出しようとするようです。
今から5万年ぐらい昔に、どうやら棒切れを集めて筏(いかだ)様の物を工夫したようです。もちろん長距離の航海には不向きですが、少なくとも水上を行き交うことができました。筏のメリットは波をかぶっても自然に排水されて浮力を失わないことです。当時のヒトにとっては大発明だといえるでしょう。そのおかげで漁労が活発になり、海辺に住む人々の食生活も豊かになります。筏も徐々に工夫が施されて、より頑丈に、より扱いやすくなったはずです。要するにヒトは水に浮く乗り物を工夫し始めたのです。
その後、木材で骨格を作り獣皮や樹皮で覆ってお椀のような舟を作ります。こうなると容積も大きくなりますが、波をかぶると排水作業が大変です。しかしながら構造を以って容積を大きくするという大進化を果たしたのです。
そして道具を使って太い木材を加工できるようになると、巨木を切り倒し、これをくり抜いて丸木舟を作ることができるようになります。これが最大の大発明だったようです。

古代の漁労風景再現展示(くりぬき舟)/兵庫県立考古博物館
撮影:柏木宏之
日本の国立科学博物館がとても大切でユニークな実証考古実験を行いました。最初は2016年に葦を束ねた草船を作って、台湾から黒潮を乗り越えて琉球諸島に渡海するというとんでもない実験を行います。実証考古学好きの私の興味を大きくそそった実験でした。
ところがやはり古代から流れ続ける黒潮が最大の難敵で、どうしても草舟や筏舟では黒潮を乗り切ることができず、大失敗を繰り返します。それでもクラウドファンディングで資金を募りつつ、琉球諸島にある3万年前の遺跡を作った人々の渡海実証を続けます。つまり旧石器時代の3万年前の人類が、大海原をいかにして渡ったのかという大実験です。
そしてついに石器で造った丸木舟「スギメ号」で台湾島から与那国島への渡海に成功したのです。漕ぎ手が男性ばかりでは到着地での子作りができないので、女性も含む僅か5人のチームで丸木舟を漕ぎました。
とにかく水平線に島影も陸地も見えず、夜空の星で方向を大雑把に知って漕ぎ続けたのです。そして黒潮の強大な流れを渡り切り、へとへとになって与那国島にたどり着きました。つまり3万年前の渡海実証に成功したのです! これはすごいことですね。2019年の快挙でした。この実証実験では草舟や竹筏の舟では失敗をしましたが、丸木舟なら渡海に成功する可能性がある!という結論です。
構造上継ぎ目のない丸木舟は強固な舟で、底が丸いという特性が横揺れに対する復元力を補強したという事でしょう。
しかし時代を経ると丸木舟を作ることのできる巨大木が枯渇し始め、地域によっては丸木舟製造の禁止令が出ます。そこで登場するのが木の板を工作して構造船を造るという技術です。
現代の船には特徴的なキールと呼ばれる、頑丈な背骨のような重要構造が船底の中心線にあり、そこから肋骨のように湾曲した躯体構造が造られて、いわゆる船底型が形成されます。
古代から西洋諸国にはそういう構造船があったようですが、日本列島製の船にはこのキールがありませんでした。中世の織田信長の巨大鉄甲船もキールが無かったといわれています。大小問わず倭船は平底船だったそうです。平底型は川舟としてはメリットがありますが、外洋型には問題もあります。大きな遣唐使船にもキールは無く、平底型だったので横波に対する復元力に弱点がありました。同じような時代でも新羅の船にはキールがあったという事ですが、大和国家は頑固に平底だったようです。

奈良県平城宮跡歴史公園展示の遣唐使船。遣唐使船も平底船だったので、横波に極めて脆弱だった。
撮影:柏木宏之
何万年にもわたる人類の渡海チャレンジと船の進化をわずかな紙数で紹介するのは難しく、ざっくりとした内容になりますが、いまや人類は空を飛び宇宙にも進出しているわけですね。やはり私たち「ヒト」はひと所にじっとしていられない生き物のようです。