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なぜ斬り殺された男は生き返ったのか? 観音様が起こした不思議な「奇跡」とは

世にも不思議な江戸時代④


田舎から江戸に出て来たある男がいた。観音様を信仰するその男はある夜、酔っ払いが刀を振り回しているところに出くわして……。


 

■田舎から出てきた男が酔っ払いに斬り殺されたが……

 

 江戸時代の話である。といっても、霊巌寺が霊巌島から深川に移って来てからの話なので、万治元年(1658)以降のことだと思われる。

 

 地方から江戸に出て来たある男が、深川にある霊巌寺(現東京都江東区白河)の塔頭に宿泊していた。男はここを拠点に、ある日は浅草の観音様こと浅草寺(現東京都台東区浅草)、また別の日は吉原(現東京都台東区)と江戸の名所を毎日のように見物していた。

 

 田舎から出て来た男は、この日も浅草の観音様をお参りするなどして、午後10時ごろ帰路についた。その途中、酒に酔った勢いで刀を振りかざして男が暴れているところに出くわした。人々が刀を持った男から逃げ惑う中、地方から出てきた男は、何が起きているのか理解できていないのか、それともこうした事案になれていないのか、逃げ遅れて酔った男の刃で斬られてしまった。酒に酔った男は、人を斬ったことにびっくりしたのか、そのままどこかへ逃げて行ってしまった。

 

 この騒ぎに誰かが呼んできたのだろうか。役人たちがやって来て、田舎から来た男を調べ出した。役人たちが確認したところ、間違いなく死んでいた。しかし、不思議なことに、その男の体のどこにも斬られた傷もなければ、血も出てはいなかった。その上、男の着物や持ち物などを探してみても名前になどを書いたものはなく、どこの誰だかさっぱりわからない。

 

 この死んでしまった田舎から出てきた男と役人たちを、何事かとたくさんの野次馬が遠巻きに取り囲んでいる。その中の1人が、今日、この男が浅草の観音様の境内で休んでいるところを見かけたと言い出した。それでは、と役人たちは遺体を駕籠に乗せて、野次馬が男を見かけたという茶店に連れて行く。しかし、茶店では、男を見ても通りかがりに立ち寄っただけの客なので、どこの誰だか知らないという。

 

 どうしたものかと役人たちが思案していたところ、ふっと、男が息を吹き返した。そして、役人は、男のいう通りに、宿泊している霊巌寺の塔頭に連れて行った。塔頭に着いてから改めて男の体を確かめてみたが、やはりどこにも斬られたような傷はなかった。

 

 この時、田舎から出て来た男は、懐に入れてあった観音様が、まっぷたつに斬られていたのに気がついた。これはきっとこの観音様が身代わりになってくださったのだと、男泣きに泣いた。そして、ますます観音様を深く信仰するようになったという。

江戸で、「観音様」といえば、浅草浅草寺の観音像を指すといわれるほど人気があった。江戸時代も時代が下ると、浅草寺の裏手に芝居小屋が立ち並び、その先に吉原があった。
「名所江戸百景・浅草金龍山」東京国立博物館蔵/ColBase

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加唐 亜紀

1966年、東京都出身。編集プロダクションなどを経てフリーの編集者兼ライター。日本銃砲史学会会員。著書に『ビジュアルワイド図解 古事記・日本書紀』西東社、『ビジュアルワイド図解 日本の合戦』西東社、『新幹線から見える日本の名城』ウェッジなどがある。

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