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じつは「残念な天守」だった大坂城 徳川によって埋め立てられた「豊臣大坂城」の悲哀


戦前の大阪人の熱い思いが詰まった大坂城天守は、大阪の誇り? それともいろいろと残念なことに成ってしまった天守?


■色々と残念なことになってしまった大坂城

 

 大阪の人に大阪を代表する建造物は? と尋ねたらおそらく高い確率で大坂城天守を上げるのではないだろうか。地上55m、5重8階つまり外からと5階建てだが、内部は8階になっている。ところどころに黄金見るの装飾が施されたその姿は、黄金太閤という異名を持つ豊臣秀吉の居城にふさわしい。

 

 しかし、この大坂城天守なのだが、実はいろいろと残念な建物なのだ。まず、今の大坂城天守は秀吉時代に造られた建物ではない。秀吉が建てた天守は、徳川方が大坂城に拠る秀吉の遺児豊臣秀頼を攻めた慶長20年(1615)大坂夏の陣の際に焼け落ちてしまった。

 

 現在の天守は、昭和6年(1931)に当時珍しかった鉄骨鉄筋コンクリートで再建されたものである。最近は木造で城の建物を再建するのが主流だが、これは文化庁が史跡の上に鉄筋コンクリートによる建物の再建を認めなくなった昭和60年代以降のこと。焼け落ちた過去を持つ大坂城天守は、耐火性に優れた建物にしたかったのだろう。このおかげで昭和20年(1945)8月14日の空襲で木造の櫓と城門など7つの建物が焼失しているが、天守は焼け残った。

 

 内部は「大阪城天守閣」という大坂城や豊臣家のことを紹介する博物館で、見学に便利なようにエレベータも完備されている。以後各地の城跡に造られた博物館のモデルとなった。

 

 天守が再建されるにあたっては、当時の大阪市長だった關一の呼びかけに応じて大阪市民たちが金を出し、わずか半年で目標の150万円に達したという。当時、大坂城跡には陸軍第四師団が入っており、天守再建に使われたのは約47万円、公園整備に26万円強、さらに第四師団司令部庁舎を新築してもなお残金があった。この第四師団司令部庁舎は現在ミライザ大阪城という商業施設として、人気を集めている。

 

 軍の用地は秘密保持のため一般の人が立ち入ることができない。ところが、史跡という性格からか一般公開され、お土産用の絵葉書が第四師団で売られていた。

 

 現在、城の研究者や愛好者の間では、城跡に建つ建物をその状態によって区別する用語を使う。江戸時代から残る建物は現存、江戸時代の工法で資料に基づき再建したものを復元、江戸時代の建物の外観を再現したものを外観復元、これ以外を復興とする。現在の風潮では、現存が一番尊く、復興はランクが下とされる。

 

 こうして大阪市民の力と金により、再建された大坂城天守は、大坂夏の陣図屏風を参考にして造られた外観復元の天守だった。「だった」と過去形なのは、昭和50年代になってとんでもない事実が発覚したからなのだ。それは昭和34年に大坂城跡の地下から発見された。当初は、秀吉の大坂城以前にこの地にあった大坂本願寺のものだと考えられていた。しかし、研究が進み、秀吉の大坂城そのものだとわかったのだ。

 

 大坂夏の陣によってほぼ建物が失われてしまった大坂城に、徳川氏は新たな大坂城を築いた。これを専門家などは「徳川大坂城」という。ちなみに寛永6年(1629)に完成した徳川大坂城の天守も寛文5年(1665)には落雷により失われてしまう。徳川氏は秀吉の城の上に土を盛って石垣を積み、新たな建物を造ったのである。今の天守は徳川大坂城の天守石垣の上に秀吉の天守が乗っているという鵺のような建物になってしまったのである。

 

 天守が再建された時には、秀吉の大坂城の石垣の上に徳川は新しい建物を建てただけと考えられていたのだからしょうがない。

 

 しかし、大坂城の天守はそれでも平成9年(1997)には大阪城天守閣として有形文化財に指定された。大阪の歴史的な景観に貢献したからだという。復興天守に区分されるようになり、残念と思う人もいるかもしれないが、三代目の大坂城天守は、大阪人たちが造った国も認める大阪を代表する建造物なのである。

大坂城西の丸から望んだ天守。年間260万以上の人が訪れる人気の観光スポットだ。西の丸からは、そんな喧噪が信じられないくらい静かに天守を眺めることができる。
撮影:加唐亜紀

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加唐 亜紀

1966年、東京都出身。編集プロダクションなどを経てフリーの編集者兼ライター。日本銃砲史学会会員。著書に『ビジュアルワイド図解 古事記・日本書紀』西東社、『ビジュアルワイド図解 日本の合戦』西東社、『新幹線から見える日本の名城』ウェッジなどがある。

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