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勲章授与は皇族を除けば「お雇い外国人」が第1号だった!? 知られざる日本の勲章制度の始まり


■明治政府により日本の勲章制度が始まる

 

 勲章は栄典の一種である。勲章の起源は中世ヨーロッパの騎士団といわれている。騎士団は異教徒と戦う集団であり、王侯や君主に忠誠を誓い、統治者は、騎士団に勲章を授与して名誉や特権を与えることにより支配システムの一翼を担うものとなった。

 

 一方、日本に勲章制度が成立したのは明治新政府の成立以降だった。江戸時代前は、勲章はなく飛鳥時代の律令官制のころに制定された位官、いわゆる官位が栄典制度の中心だった。歴史をさかのぼれば聖徳太子が制定したといわれる冠位十二階がルーツとなっている。701年大宝律令は最古の栄典と言われている。

 

 長い歴史に転機が訪れたのは明治維新だった。開国したものの、世界は列強が跋扈する帝国主義時代に突入しており、日本が植民地になる危険さえあった。ましてや不平等条約に苦しむ日本は、欧米列強に追いつくため近代国家に生まれ変わるのは急務だった。議会、憲法、内閣などに全く無知だった日本は、お雇い外国人を招き、留学生を送り、岩倉具視使節団を派遣などして近代化に邁進、そのなかで早期に誕生したのが勲章制度だった。

 

 明治政府は、西洋事情に明るかった大給恒(おぎゅうゆずる)、三河奥殿藩の松平乗謨(まつだいらのりかた)を1873(明治6)年に「メダイユ取調御用掛」に任命、世界各国の勲章制度を調査するため出張させた。その後この成果が賞勲局設置(1876年)になっている。

 

 かくして1875年4月に「勲章従軍記章制定ノ件」(太政官布告第54号)が公布され、これが日本の勲章制度の始まりとなった。

 

 これを受けて明治天皇は同年12月、勲一等旭日章を自身も授与し、さらに有栖川宮幟仁親王ら7人の皇族に授与した。明治憲法では天皇は「統治権の総攬者」、つまり主権は天皇にあり、西洋列強の王族や貴族階級と肩を並べるには天皇や皇族の権威の確立を計る必要があり、それは勲章の授与から始まったといっても過言ではない。そこで新たに生まれたのが日本で最高勲位となる大勲位菊花大綬章だった。

 

 翌1876年12月、大勲位菊花大綬章は、旭日章に続いて制定された最高位の勲章で、これはイギリスのガーター勲章、スウェーデンのセラファン勲章など当時の各国王室が通常の勲章の上に最高位の勲章を制定していたので日本も列国に合わせたというものである。しかし、またもや改正され、10年後の1888年1月、勲章では唯一頚飾(ネックレス状)が施されている大勲位菊花章頸飾が制定され、これが現在もいたるまで最高位の勲章となっている。一般受章者では伊藤博文、大山巌、山縣有朋、井上薫、西園寺公望など元老クラスが名を連ねている。昨今では吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、安倍晋三が授与されている。

 

 ところで、最初に勲章を授与された外国人はいわゆるお雇い外国人である。 1876年、政府の外交顧問のチャールズ・ルジャンドル(アメリカ)と、国内法整備に貢献したギュスターヴ・エミール・ボアソナード(フランス)の二人が勲二等 旭日重光章を授与されている。もちろん2人とも功労者だったが、この授与は近代日本の海外へのアピールとしても重要だったのだろう。

 

 因みに国内では 三条実美が1885年、大勲位菊花大綬章を授与されている。

 

 注目したいのは内閣制度(1885年)よりも10年も早く制定されていることである。内閣制度より勲章のシステムを取り入れるほうが早かったことは明治政府の画期的なことで、列強との対等な立場の模索の一つというべきだろう。

 

 一方、旭日章、大勲位菊花大綬章が国家の勲章としてスタートから制定されていたにも拘らず、いずれもその授与対象を男性に限定していたため、国際儀礼上の観点や国民に対する栄典の公平性を図るために、従来外国人女性対象だった宝冠章ではあるが、女性向けの勲章の制定が求められ2003(平成15)年、栄典制度の改正で成年を迎えた女性皇族にも宝冠章が授与されている。眞子内親王は2011年、佳子内親王は2014年、愛子内親王は、2022年成人式を迎えられ宝冠大綬章を授与されている。ただ2022年4月1日から、 民法が改正され、成年年齢が20歳から18歳となった。

 

 現在、国内では22種類の勲章が存在しており、菊花章、桐花章、旭日章、瑞宝章、宝冠章、文化勲章に大きく分けられる。概略すると、文化勲章は文化の発展に「勲績卓絶なる者」となるが、菊花章や桐花章は国家レベルで優れた功労のある者、瑞宝章は公共的な業務レベル、宝冠章は皇族女性や外国人対象に授与されることは承知しておきたい中身である。

 

 

 

大勲位菊花章頸飾や菊花章副章など、さまざまな勲章を身に着けた昭和天皇 National Archives

 

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波多野 勝はたのまさる

1953年、岐阜県生まれ。歴史学者。1982年慶応義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。法学博士。元常磐大学教授。著書に『浜口雄幸』(中公新書)、『昭和天皇 欧米外遊の実像 象徴天皇の外交を再検証する』(芙蓉書房出版)、『明仁皇太子―エリザベス女王戴冠式列席記』(草思社)、『昭和天皇とラストエンペラー―溥儀と満州国の真実』(草思社)、『日米野球の架け橋 鈴木惣太郎の人生と正力松太郎』(芙蓉書房出版)、『日米野球史―メジャーを追いかけた70年』(PHP)など多数。

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