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令和の時代にアップデートされた地獄めぐり 全興寺/大阪府大阪市平野区

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第26回】

 


津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。


 

■QRコードをかざして地獄をめぐる

 

 観光地の寺院などで。たまに「地獄めぐり」をやっているところがあります。怖そうな鬼に亡者が拷問されているような人形やイラストを目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。本来の意味では悪いことをしてはダメという戒めなのでしょうが、実質見世物になってる気もします。どちらかというと、昭和的な古い観光要素です。

 

 ですが、こういう地獄めぐり的なものを令和でもちゃんと楽しめるようにカスタマイズしている寺院もあります。大阪市平野区の全興寺(せんこうじ)です。平野自体がものすごく歴史のある都市ですが、そんな平野の渋い商店街に隣接して全興寺という寺院があります。

 

入り口からして情報が渋滞している

 商店街のほうから入ると、まず白いスモークを浴びて鎮座する不動明王様の姿が。やけにお金のかかった演出だなと思って先に進むと、いろんなグッズも販売している受付が。こちらで100円を払うと、その名も「地獄通行手形」がもらえます。地獄にはあまり何度も行きたくないですが……。それはそれとして、この手形にはQRコードがついています。そう、QRコード! 昭和に絶対なかった要素です。QRコードを地獄堂というところに行ってかざすと、地獄の映像を見られるというシステムです。

 

 地獄堂で流れる映像自体は地獄の恐ろしさを伝えるという昔ながらのスタイルのものですが、入り口の注意書きには親御さんに向けて「お子さんを恐怖心で支配するような考えはやめましょう。このお堂は悪いことをしてはいけないこと、命の大切さを学ぶためのものです」というような、まっとうすぎることが書いてありました。たしかに怖いから悪事を止めるというのは、恐怖で支配することの正当化になりかねないので現代の教育の視点で考えれば間違ってます。地獄を扱う価値観もまたアップデートされていました。

地獄の釜の音が聞こえる石

 この地獄映像のほかにも、地獄の釜の音が聞こえるというスポット、賽の河原の石積み体験、仏様と赤い糸で仏縁が結べる場所などなど、ちょっとふざけてるようでふざけすぎてないアミューズメントが各所に置かれています。しかも入場料の高いテーマパークと違って100円の地獄通行手形で楽しめるのでお財布にも優しい!

 

 ほかにも境内には昔の駄菓子屋さんを再現した展示施設などもあって、充実しています。有名テーマパークほどにはお金はかかっていませんが、お寺の方の創意工夫のおかげで楽しい仕掛けが境内にあふれています。ご立派な企業努力……もとい寺院努力だと思います。ぜひ一度令和の地獄めぐりに平野までお越しください。

 

おひとり様でもできる赤い糸の縁結び

 

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過去記事

森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

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