×
日本史
世界史
連載
ニュース
エンタメ
誌面連動企画
歴史人Kids
動画

人生で一番「牛の形をしたもの」を目にする日 30万体以上の「牛の備前焼き」に圧倒される! 田倉牛神社/岡山県備前市 

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第27回】

 


津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。


 

よく見ると賽銭箱の奥にも牛の焼き物が

 

■巨大な塚を築けるほど奉納された牛の備前焼き

 

 神社や寺には特定の「モノ」が奉納されているところがいろいろとあります。寺社を超えて地域レベルで根付いてるものを挙げれば、群馬県高崎市の達磨寺のだるまを思いつきます。お寺に着く前からとにかくだるまを目にしますし、奉納されすぎただるまに支配されてるようなお堂もあります。高崎駅周辺でもだるまは当たり前のように目にしますから、もはや高崎全体のシンボルやマスコットキャラクターと言ってよいでしょう。ほかにも底の抜けたひしゃくや招き猫を奉納するところもありますね。

 

 こういった奉納物の種類が独特の場所もあります。それが岡山県備前市の田倉牛神社(たくらうしがみしゃ)です。神社名の時点でネタバレしていますが備前焼きの牛の焼き物を奉納します。この神社、最寄駅から遠いのが難点ですが、ルートはほぼ平坦地なのでそこまできつくはないです。

 

 山陽本線の吉永駅から約3キロ東に歩くと、神社が見えてきます。境内に上がっていくと、何かがうずたかく積まれて塚になったスポットがあります。近づいて見てみると、この山を構成しているのはすべてが牛の備前焼きです。どれだけの数なのかという牛が文字通りの山になっているわけです。境内の摂社にも同じように牛の焼き物が置かれているので、ほぼ確実に人生で一番牛の形をしたものを目にする日になります。

見渡すかぎりの牛の焼き物

 小さな牛の置物で感動する人は世の中にいないでしょう。ですが、その数が巨大な塚を築けるほどのものになると話が違ってきます。信仰心なんてものはもちろん目に見えないのですが、それが奉納物という形に変換された際、その規模や数に衝撃を受けます。どれだけ多くの人に信仰されてきたらこうなるのか、そんな素朴な畏敬の念を抱かずにはいられません。

 

 ところで神社の案内板には「牛馬像」という表現が使われている箇所がありました。もしかして、じっくりと観察すると馬の像も紛れて存在しているんでしょうか? ざっと確認したところではすべて牛でしたし、田倉牛神社のルーツには牛頭天王の信仰もあるようなので、普通に考えれば牛の焼き物を奉納していたと思うのですが。あるいはかつては馬の焼き物を奉納するケースもあったんでしょうか?

 

 公共交通機関でのアクセスは便利とは言えない神社ですが、ぜひ一度参拝していただきたい神社の一つです。観光客用のお店なども周辺にはなく、あくまでも地域の人たちによって守られ続けている神社ですので、静粛にお参りしましょう。

祈願・お供え用の牛の焼き物。願い事1つにつき1体を奉納する

 

 

KEYWORDS:

過去記事

森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

最新号案内

『歴史人』2025年10月号

新・古代史!卑弥呼と邪馬台国スペシャル

邪馬台国の場所は畿内か北部九州か? 論争が続く邪馬台国や卑弥呼の謎は、日本史最大のミステリーとされている。今号では、古代史専門の歴史学者たちに支持する説を伺い、最新の知見を伝えていく。