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日本で一番神聖な気持ちになれる大名墓地 東光寺と大照院/山口県萩市

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第17回】

 


津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。


 

東光寺の毛利家墓所。東光寺は萩藩3代藩主毛利吉就によって創建された。撮影:森田季節

■3代から11代までの萩藩主と夫人、関係者などが眠る東光寺

 

 城下町を旅すると、高確率で藩主あるいは室町時代や戦国時代の領主の菩提寺があります。史跡として見学可能なところも、墓所への門が閉じられているところもあります。また、街の基礎を作った一族として地元自治体が顕彰してるところもあれば、ほぼ案内板もない塩対応なところもあり、対応も温度差もまちまちです。とはいえ、藩主・領主のお墓もいわば史跡なので、参拝できる余裕がある時は極力場所を探して手を合わせています。

 

 そんな墓所の中で最も壮大で神聖と思うものが長州藩――つまり毛利氏の墓です。この長州藩、奇数の藩主と偶数の藩主でそれぞれ別の寺院の墓所に埋葬されていますが、どちらのお寺のほうも極めて神々しいです。もちろん、大大名のお墓だからということもあるでしょうが、それだけで大大名の墓がどこも壮麗になってるわけではないので、長州藩の特徴だと思っています。

 

 まず1箇所目の東光寺(とうこうじ)です。松下村塾(しょうかそんじゅく)が境内にある松陰神社から東に向かうと着きます。こちらは3代から11代までの奇数藩主と夫人、関係者などの墓です。小さな門をくぐって進むと、模様のように伸びた石畳と石灯籠が芸術的に配されています。その先に鳥居と墓石が並んでいます。お墓というよりは神殿に入ったような気持ちになります。感覚的なものゆえ言葉で伝えるのは限界があるので、どうすごいのかは現地で体験して味わってもらいたいです! 通常、お墓では発生しない感動を覚えます!

 

2代から12代までの萩藩主と夫人が眠る大照院

大照院にある毛利家墓所の入り口に佇む門。撮影:森田季節

 もう1箇所の大照院は萩観光の中心エリアから橋本川を越えた先にあります。こちらは2代から12代までの偶数の藩主のほうの墓です。こちらの墓は背後が山だからか、ゆるやかな石畳を上がっていく形式になっています。ほどよく光が入ってきて、これまた神域に向かうような気持ちになりました。

 

 そんなの当日の気候次第だろと言われればそのとおりなんですが、5月の一般的な晴れの日で神々しい雰囲気になったので、しょっちゅう神聖な空気が出ているはずです。ということは、神聖な空気を出せるよう意図して設計されたのではという気がしてくるのですが、これに関しては完全に僕の妄想です。

 

 そもそもお墓というのはこの先どれだけ置かれるか把握できないものなので、各地の大名墓地では土地が足りなくなって順番が無茶苦茶になっていたり、途中の代から少し離れた高台に設置されていたりと雑然としているところが多いです。7代目まではきれいに並べられるけど、8代目以降は置き場がないというようなことが起こるからです。それと比べると、長州藩の毛利家の墓地は極めて計画的に墓石や石灯籠が配置されています。おそらく江戸時代後半などに整備をしたんでしょう。人様のお墓で感動するのもおかしいのですが、厳粛な気持ちになったのも事実なのでこの2つの墓所は大成功だと思います。

 

大照院の毛利家墓所。東光寺、大照院どちらの墓所も国の史跡に指定されている。撮影:森田季節

 この2箇所のお寺は萩の市街地の中でも隅のほうにあるので、街の中心部から観光をスタートすると訪れる時間がなくなってきがちです。萩は本当に見るところが多いうえに範囲も広いので、てきぱき動かないと時間が不足します。自分も昼食の余裕がなかったので、萩城の近くで夏みかんゼリーとゆずジュースだけをおなかに入れてあわてて大照院に向かいました。ただ、どちらも昼食を削ってでも拝観する価値のある寺院ですので、ぜひお墓に行って手を合わせてください。

 

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森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

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