蔦重が自ら序文を書いた『青楼美人合姿鏡』 本に描かれた瀬川の姿と彼女が残した俳諧の内容とは?【大河『べらぼう』】
NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の第10回「『青楼美人』の見る夢は」では、蔦屋重三郎(演:横浜流星)が女郎たちの豪華絵本を作るために奔走し、鳥山検校(演:市原隼人)に身請けされる瀬川(演:小芝風花)への餞別として手渡した。物語の中心となった『青楼美人合姿鏡』には、実際に瀬川の絵と彼女が詠んだとされる俳諧も収録されている。
■『青楼美人合姿鏡』に残る五代目瀬川の存在
五代目瀬川が江戸随一の大富豪で高利貸だった鳥山検校に身請けされたのは、安永4年(1775)のことだった。1400両という大金が動いたこの身請けは、江戸中の話題となり、この騒動をモチーフにした戯作などもつくられている。
蔦重が制作した『青楼美人合姿鏡』は、安永5年(1776)が初版だ。当時人気のあった北尾重政、勝川春草という2人の浮世絵師がコラボした吉原美人画集で、3巻に渡る豪華仕様だった。話題の浮世絵師による作品ということで、蔦重は自ら寄せた序文において「其道の今新に時めける北尾、勝川二氏の彩毫を労して、月雪花の姿の三の巻となれるを、則美人合姿鑑と題して……」と、自信のほどを窺わせている。
中身は吉原遊郭内の四季折々の風景とともに、遊女たちが思い思いに過ごしているいわば“オフショット”を描いたものだ。色鮮やかな着物、部屋の調度品、丁寧に描きこまれた小道具なども目を引き、当時の遊女たちの暮らしぶりや文化を知る上での貴重な資料ともされている。
そして、その1番最初に登場するのが、瀬川だ。『べらぼう』でも描かれた通り、松葉屋の遊女4人がくつろぐなか、瀬川は手元に本を持っている。遊女にとって本は教養を身に着けるための手段というだけでなく、数少ない娯楽でもあった。現代にまで伝わるこの『青楼美人合姿鏡』に残された瀬川の姿と、瀬川の身請け、本の出版の時期といった要素を組み合わせてあれほどの恋物語に仕立てた脚本は見事というよりほかない。
さて、この『青楼美人合姿鏡』に載っているのは、遊女たちの絵だけではない。巻末には遊女たちが詠んだ俳諧も収録されているのである。そのなかの「春の部」には瀬川の俳諧もある。「きのふこそとしは暮しかと詠る遠山のながめにも心かよひて」と前置いて、こう詠むのだ。
「うくいすや 寝ぬ眼を覚ます 朝朗(あさぼらけ)」
春の吉原の早朝、徐々に夜が明けていく時分の雰囲気が手に取るように伝わる。ちなみにすぐ隣にはドラマにも登場する松の井の俳諧も載っている。当時の遊女たちはこうした俳諧もさらりと詠んでみせる知識と教養が必要だったことの証左でもある。『青楼美人合姿鏡』は、国立国会図書館デジタルコレクションや文化遺産オンライン等で見られるので、ぜひ一読していただきたい。

一番右側で本を読んでいる女性が「瀬川」
『青楼美人合姿鏡 春夏』/国立国会図書館蔵