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オンラインカジノ騒動どころじゃない⁉️ 「文春」社長や「松竹」女優が「賭け麻雀」で一斉検挙された「文士賭博事件」とは (日本のギャンブル史)

炎上とスキャンダルの歴史


令和ロマン・くるまやオリックス山岡など、次世代お笑い芸人・プロ野球選手による利用が相次いで発覚し、社会問題となっているオンラインカジノ。近年になって利用が拡大し、違法性を認識せずに手を出してしまった人も多いようだ。じつは昭和期にも、文春社長・菊池寛や松竹所属の女優などが賭博で検挙され、世間を騒がせたことがある。どういった事件だったのか、見ていこう。


  

■不景気だったのに賭博が流行していた戦前

 

 最近、オンラインカジノの問題をよく目にするようになりました。現代日本では競艇、競馬など一部の「公営ギャンブル」を除き、賭博は違法です。刑法第185条で「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する」と厳格に定められているのです。

 

 しかし、明治から昭和にかけての法曹界の大物として知られる三宅正太郎によると、昭和初期の「日本の犯罪統計で、数において、犯罪の王座を占めてゐるのは賭博罪である」(昭和9年・1934年『法官余談』)。つまり、昔の日本のほうが(やはり違法だったにもかかわらず)博打好きが多かったようです。

 

 それまで、好景気になればなるほど賭博で捕まる人は増加し、不景気になると減る傾向はあったそうですが、大正末~昭和初期は深刻な不況だったにもかかわらず、日本中で賭博は行われていました。

 

■警察にマークされ、一斉検挙

 

 昭和9年(1934年)3月16日には、麻雀賭博の常習犯とみられた菊池寛をはじめとする作家や、松竹所属の女優などセレブリティがごっそり検挙される事件が起きました。このとき連行された十数名は一室に閉じ込められ、みっちり一晩取り調べられただけで釈放してもらえました。それでも菊池寛は警察のやり方が気に食わず、自分の雑誌「文藝春秋」でボヤくことに……。

 

 菊池の「文藝春秋」といえば、直木三十五が『著者小傳』というエッセイで認めているように、1時間あたり「(原稿用紙)五枚乃至十枚を書き得」るほどの速筆に大いに助けられた雑誌でした。

 

 そして直木が亡くなったのがちょうどこの年、昭和9年2月24日だったのです。警察もさしたるもので、直木三十五の死を悼んだ仲間たちが、3月初頭に追悼・賭け麻雀大会を開催という怪情報を摑んでいたのですね(どんな追悼やねんという話ではありますが……)。だからこそ、直木と親しかった菊池もマークされていたというわけです。

 

 実際、同年3月1日に芝区(現在の港区)の旅館で開催された賭け麻雀に参加してしまった画家や作家、貴金属商などは起訴され、罰金刑に処されています。レートは「千符10円」――1000点あたり10円でした。

 

 筆者は麻雀のルールを知らないのですが、1000点取るのは難しいことではないそうです。また、昭和10年(1935年)頃の大卒サラリーマンの初任給が80~100円だったといいますから、昭和初期の10円は現在の数万円程度に相当でしょうか。高めのレートだったことで有罪視されたようですね。

 

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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