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大河ドラマ『べらぼう』平賀源内が瀬川菊之丞を登場させたBL戯作『根南志具佐』とは? 閻魔大王が美しき女形に一目惚れする愛憎物語


大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の第2話では、蔦屋重三郎(演:横浜流星)が奮闘し、幼馴染の花魁・花の井(演:小芝風花)の機転によって平賀源内(演:安田顕)に『吉原細見』の序文を執筆してもらうことに成功するというストーリーが描かれた。平賀源内は男色家で、「瀬川」は伝説の遊女ではなく、歌舞伎の女形・瀬川菊之丞への想いを抱えていた。そんな源内が書いた男色の物語には、じつは菊之丞が登場するものがあった。


 

■実際に起きた女形水死事件をベースにした男色物語

 

 男色家で生涯妻をもたなかったという平賀源内は、男色の戯作も手がけている。そのうちのひとつが『根南志具佐』だ。源内が「天竺浪人」というペンネームで執筆し、宝暦13年(1763)に刊行された。

 

 話は、とある僧侶が、美貌の女形(歌舞伎において女性を演じる役者)として人気を集めた二代目・瀬川菊之丞に夢中になり、貢ぐために悪事を働いたために地獄へやってくるところから始まる。

 

 僧侶は後生大事に瀬川の姿絵を持っていたが、閻魔大王は「男同士が交わるなどありえない……!」と男色に対して怒りを露わにする。ところが転輪王が「女色は『甘い蜜』だが男色は『淡い水』のようなものだ」といい、要約すると「男色はツウにしか味わうことができない」と言う。その上瀬川の絵を目にしてしまい、なんとあまりの美しさに一目惚れしてしまうのだ。

 

 「菩薩もかなわぬ美しさ」とすっかり惚れ込んで、自分のものにしたいと思った閻魔大王は、十王(地獄で亡者の審判を行う10尊の尊格)を巻き込んで大騒ぎ。最終的には、竜宮城の龍王に「手下の者を使って菊之丞をさらって地獄に連れてこい」と命令する。

 

 最終的にその役を引き受けた河童が、同じ女形の荻野八重桐と共に舟遊びにきた菊之丞のもとに若い侍の姿で現れ、菊之丞もこの侍に惹かれて夜を共にする。このまま水の中に引きこんでさらっていく手筈だったのだが、この河童も菊之丞に一目惚れしていた。

 

 河童は洗いざらい菊之丞に打ち明ける。そして、「自分は河童なのに、あなたに惹かれてしまった。あなたのことは連れていけない。どうせ役目を果たせない自分に先などないから、この命を絶つ」と言うのだ。それを聞いた菊之丞は「人外と契ることなど何も悪くない。枕を共にしたあなたを死なせるわけにはいかない。私を閻魔大王のもとへ連れていって役目を果たしてくれ」と返す。外見だけでなく、心も美しい人間として描かれているのだ。

 

 菊之丞は自ら身を投げようとするが、河童が必死でそれをとめた。しばらく2人が問答していると、それを聞きつけた八重桐が登場。2人の真摯な想いを目の当たりにし、自分が菊之丞の身代わりになって閻魔大王のもとへ行くと言い出す。そこからすったもんだの末、河童は姿を消し、八重桐が川に身を投げてしまった。1人残された菊之丞は慌てて舟から身を乗り出して八重桐を探すが、「危ない」と止められ、最後には呆然と水面を見つめ続ける……という物語だ。

 

 この物語は宝暦13年(1763)に荻野八重桐が隅田川で舟遊びをしている最中に溺死した事件をベースにしている。しかも、圧倒的な人気を誇っていた瀬川菊之丞まで登場させて、男色の物語にしてしまったのだ。ちなみに、源内は瀬川と深い仲だったともいわれており、菊之丞が登場したのにはそういう事情もあったのだろうと考えられている。

 

 本稿ではかなり意訳、はしょって紹介したが、『根南志具佐』は単純なBL戯作ではなく、腐敗した幕政への批判なども込められており、当時の社会を痛烈に風刺する作品だった。

 

 ちなみに、『べらぼう』第1話では、この物語を重三郎が病床の朝顔に読み聞かせていた。ここで既に源内の存在や男色家であることが匂わされていたのである。

 

歌川豊国が描いた「瀬川家系譜」。↓に描かかれているのが、二代目瀬川菊之丞。
東京都立中央図書館蔵

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