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「転ぶ(ころぶ)」とは男に身体を許すこと【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語81


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■転ぶ(ころぶ)

 

 芸者が金をもらって客の男と寝ること。

 

 表向きは、芸者は客と寝てはならないとされていたが、実際には客と寝るのは常識だった。とくに、深川の芸者はすぐに転ぶので有名だった。

 

 転じて、素人の女が男に体を許すのも「転ぶ」と言った。

 

 図では、男が芸者に、「てめえはな、あんよはお下手、転ぶは上手だ」とからかっている。

【図】転ぶは上手。『会本江戸紫』(喜多川歌麿、享和元年/国際日本文化研究センター蔵)

(用例)

①春本『泰佳郎婦寐』(北尾政演か、天明元年頃)

 

 男が、恋人である芸者に言う。

 

 男「てめえ、この頃、下谷の屋敷で転んだそうだの」

 女「また、久しいもんさ。座敷さえあれば、転ぶものかえ。ついぞねえ」

 

「久しいもんさ」は当時の流行語で、「なに言ってんのさ」くらいの意味。

 

 

②春本『会本美図之三巻』(勝川春好、天明六年)

 

 男が座敷で、芸者に言う。

 

「さあ、さあ、転んでくりゃれ。もう、もう、お身の顔を見ると、魔羅が折れそうだ」

 

 要するに、「させてくれ」とせがんでいる。

 

 

③春本『艶本君が手枕』(喜多川歌麿)

 

 芸者が男と情交しながら、

 

「あれさ、もっと突っ込みなよ。ええ、もう、いっそ可愛いのう。おめえに転ぶは、ぬかるみに転ぶより損だが、惚れた病で、足がきかねえから、また、けつまずいた」

 

 男は客というより、本当に惚れた男である。そのため、金はもらっていないようだ。

 

 

④春本『会本美津埜葉那』(喜多川歌麿、享和二年)

 

 客の男が芸者に迫る。

 

男「さあ、さあ、野暮を言わず、尋常に転んでくれ」

女「あれさ、まあ、お待ちよ。まあ、ちょっと、放しな。随分、尋常にするから」

 

 芸者は転ぶつもりのようだ。

 

 

⑤春本『艶本葉男婦人舞喜』(喜多川歌麿、享和二年)

 

 男が芸者にいやみを言う。

 

男「ほかの人にも転ぶだろう。それも知らねえで、俺ばかりいい色男の気でいるやつさ」

女「あんまり転び、転びと、安くしてくんなさんな。金で自由になる芸者とは、ちっと違いやすよ」

 

 女は自分は金では転ばないと言っているが、はたして、どうだろうか。

 

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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